子どもの頃のスポーツ体験が、その後の人生におけるスポーツとの向き合い方の原点になることを考えれば、身近な地域のスクールで質の高い指導を受けられるかどうかは重要だ。にもかかわらず、月謝で成り立つ事業モデルでは指導者の報酬を上げることが難しく、多くのスクールで指導者の確保が大きな課題となっている。新型コロナウイルス禍でその課題が改めて顕在化する中、ピンチをチャンスに変えようとしている地域クラブの取り組みを追った。

埼玉県久喜市を拠点とするサッカークラブ「ファルカオフットボールクラブ久喜」(以下、ファルカオFC久喜)では昨年(2020年)春の緊急事態宣言をきっかけに、ウェブ会議ツールを使ったオンライン練習を始めた。グラウンドで練習ができるようになった現在も週2回、登校前の早朝に小学校高学年の子どもたち15~20人が自宅や庭などから参加し、筋力や体幹を鍛えるトレーニングを行っている。

オンライントレーニングは子どもたちにも好評だ(写真はすべてファルカオFC久喜提供)
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オンライントレーニングは子どもたちにも好評だ(写真はすべてファルカオFC久喜提供)

コロナ禍で始動 オンライントレーニングに手応え

オンライン練習はコロナ禍で活動自粛が続く中、コーチと選手が顔を合わせて少しでも体を動かす時間を作りたいという理由から始めた。開始してみると子どもたちや保護者から好評で、「続けてほしい」という要望が多かったという。保護者からアンケートをとってフィードバックしながら、現在はリズム感を養うトレーニングや目の機能を鍛えるビジョントレーニングなども取り入れる。オンラインでつながる環境をつくったことで、以前は練習を中止していた雨の日にも、オンラインに切り替えて練習ができるようになった。

「緊急事態宣言発令時に、オンラインで何ができるか試行錯誤したことが今につながっています。『おうちでトレーニングをしてね』と言っても1人ではなかなか続けられないが、みんなの顔を見ながら行うので雰囲気もすごく良く、子どもたちも前向きに取り組めているようです」とクラブ代表の大久保翼さんは話す。最近は子どもたちに順番にコーチ役を務めてもらい、自分たちで進めるようにしているという。通常の練習ではなかなか取り組めない体の基礎を作るトレーニングをオンラインで集中して行うことにより、「試合で当たり負けしないようになってきた」と手応えも感じている。

ファルカオFC久喜代表の大久保翼さん(撮影:瀬川なつみ)
ファルカオFC久喜代表の大久保翼さん(撮影:瀬川なつみ)

同クラブは世代別の日本代表にも選ばれた経験がある大久保さんと、スポーツライターの瀬川泰祐さんが発起人となり、2016年に設立したサッカークラブだ。オンライン化は瀬川さんを中心に進め、当初は現役Jリーガーらの体験を聞く座学の講座なども準備していた。

反響が大きかったのは、1回300円でだれでも参加できるオンライン講座「みんなで体を動かそう!」。昨年5月のGW中に行った講座には、予想を超える約80人の小中学生が参加した。クラブ会員以外も半数を占め、「スポーツの場を失った子どもたちがいかに多く、みんな体を動かす機会を求めていることがよくわかった」と瀬川さんは言う。

育成世代こそデジタル技術で「客観的事実」に基づく指導を

オンライン練習をスムーズに取り入れることができた背景には、同クラブが進めてきたデジタル戦略がある。地域のスポーツ環境を良くしたいという思いから立ち上げたクラブは、質の高い指導を目指し、コロナ禍以前から積極的にデジタル技術を活用してきた。2018年には小学6年生~中学生を対象に、試合などの動画を分析し、その動画を子どもたちと共有する映像分析ソフトを導入。現在もミーティングはウェブ会議ツールを使いオンラインで行っているが、各自がスマートフォンなどを利用し、試合の動画を見ながら意見を出し合える環境は、オンライン化を進める前から整っていた。

さらに昨年8月からは、走行距離や心拍数、スプリント(ダッシュ)回数、スピード、疲労度などのデータがリアルタイムで計測できるGPS搭載のウェアラブルセンサーを導入し、指導や選手起用に生かしている。

導入したウェアラブルセンサーは、プロサッカー選手の本田圭祐さんが育成年代のデータ活用を目指して開発したもの。本田さんの熱望により、心拍数が高い苦しい状態でどれだけスプリントしたかという「根性」も数値化できるユニークなデバイスで、今年の高校サッカー選手権大会でも出場48チーム中15チームが導入していることで注目された。とはいえ、小中学生対象の地域スポーツクラブでの導入は全国的にも数少ない取り組みという。

アドバイザーとして新しい取り組みを推進する瀬川泰祐さん(撮影:瀬川なつみ)
アドバイザーとして新しい取り組みを推進する瀬川泰祐さん(撮影:瀬川なつみ)

「指導者が経験に基づいた感覚だけを頼りに選手を評価し指導する、これまでの地域スポーツの現場では、コーチによって言っていることがバラバラだったり、選手が納得できないまま従うだけになってしまったりすることも多かったように思います。しかし、データによる客観的な事実があれば、選手は納得してトレーニングに取り組むことができ、どうすれば課題を改善できるのか自分で考えるきっかけにもなるでしょう」と瀬川さん。

例えば、試合の終盤にパスミスが増える選手がいる。心拍数が高い状態がずっと続いているデータを見れば、疲労の回復が遅いから、疲れがたまる終盤は冷静な判断ができなくなっているのだと理解できる。だから、その選手に必要なのはパスのトレーニングではなく、回復を早めるトレーニングだということも、わかってくる。クラブでは試合でとったデータの一覧を選手たちのグループSNSで共有し、振り返りの材料にしている。

「今後また公共施設の利用ができなくなったとしても、オンラインを通して、子どもたちが自主的にサッカーを題材にして学び、成長できるような下地は作ることができたのではないかと思っています」と瀬川さんは力を込める。