5つのアプローチで集中力向上

「集中力の向上」「感情のコントロール」「緊張水準の理解」のために伴氏が取り組んだのは次の5つだ。

(1)オメガウェーブの活用

毎朝と毎夜、加えて週に1~2回程度行われる試合の2時間ほど前にオメガウェーブで脳波と心拍変動を測定。

(2)瞑想(めいそう)(意識のコントロール)

オメガウェーブで測定中に瞑想を行い、意識をコントロールする力を鍛えると同時に、リラックスや気持ちの切り替えのすべを身に付ける。

(3)ベストパフォーマンス分析

過去半年間の中から、いいパフォーマンスができていたと感じる試合、悪いパフォーマンスだったと感じる試合をピックアップし、それぞれの時点での思考や集中状況、緊張度などを選手の主観で採点。ベストパフォーマンスを生み出すのはどのような状態か分析し、再現度を高める。

(4)振り返りと言語化

(3)以外の試合に関しても、良かったこと、悪かったことを棚卸しして言語化することで、どうすれば良いプレーにつながり、悪いプレーを避けられるかを理解していく。

(5)WOOP(Wish、Outcome、Obstacle、Plan)

(3)と(4)で見えてきたことを踏まえ、目的、目標、フォーカスすること、阻害要因、その対策を整理し、繰り返し実行していくことでハイパフォーマンスの再現性を高める。

伴氏は2020年夏から半年間をかけ、選手一人ひとりとオンラインで会話を重ねながらこの5つを実行していった。この取り組みに対して奥村氏は「回を重ねるごとに選手たちがしっかりと言語化できるようになっていくのを実感できた」と語る。そして実際にメンタル面の数値も明確に変わってきたという。

「オメガウェーブで測定した脳波と心拍変動は波形で表示されます。その揺れが大きいと意識があちこちに散らばっている状態で、逆に揺れが少ないほど集中できている状態を意味します。ある選手は、9月ごろの時点では波形のゆれが大きく、4分間測定を続けても最後まで安定しなかったのですが、測定や瞑想などを継続していくことで徐々に安定していき、11月から12月ごろには2分ほどで意識が安定するようになっていきました」(伴氏)

当初は「選手たちも半信半疑だった」(奥村氏)ものの、波形の揺れが小さくなるに従ってパフォーマンスの向上も実感し、オメガウェーブの有用性はチーム内に浸透。ただし、意識を集中させるすべが身に付いてからも、格下相手の試合時などには十分にやる気が発揮されず波形が乱れることもあったという。そういった際には「ウォームアップのやり方を変えてみたり、何か言葉をかけたりと、介入ができる」(伴氏)ようになるため、オメガウェーブは試合前のモチベーションコントロールにも効果を発揮するという。

Omegawaveで測定したある選手の波形。左が9月ごろのもので、右が12月ごろのもの。左側は4分間の波形が大きく揺らいでいるが、右側は終始安定していることが分かる
Omegawaveで測定したある選手の波形。左が9月ごろのもので、右が12月ごろのもの。左側は4分間の波形が大きく揺らいでいるが、右側は終始安定していることが分かる
(画像:SAJ)
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スカウティングに影響も

取り組みの前後で行ったアンケートでも、すべての選手が成長を実感できたと回答した。伴氏は「プロジェクトの目的であったコンスタントなパフォーマンスのために集中力を向上することと、緊張水準を理解・コントロールすることができた」と手応えを語る。

メンタルにまつわるデータを可視化できるということは、フィジカルや技術面以外にも選手を評価する指標が増えることを意味する。今後データの開示ができるようになれば、選手のスカウティングにも影響を及ぼしていくだろう。最後に、奥村氏と伴氏はそれぞれ次のように今回のプロジェクトを振り返った。

「これまでメンタルトレーニングの重要性は理解していたものの、何をすればいいのか分からない部分がありました。しかし今回のプロジェクトを通じてメンタルの整え方が見えてきました。この領域において、立ち返る場所を知ることができたのは、非常に大きかったと感じています」(奥村氏)

「オメガウェーブはメンタルデータを可視化してくれますが、選手本人が何に意識を向けているかまでは分かりません。その意味では、見える化したものに対して人が介入し、道筋を整え、質を高めていく必要があります。ですから、テクノロジーと人の知見を組み合わせることが、選手の成長には大切だということを改めて実感できました」(伴氏)

この記事は、日経 xTECH(クロステック)の「スポーツIT革命の衝撃」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2021年3月16日)。