スポーツコーチングを学んだ若手起業家が、スポーツを軸に据えた保育園をこの春にオープンさせた。茨城県つくば市の「チェーロスポーツ保育園」がそれだ。数多くのスポーツ選手を輩出し、体育科学の研究で知られる筑波大学とも連携。子どもたちの興味関心を重視した運動プログラムを提供する。幼児期の運動は脳の発達や情緒の安定にもつながるとされており、保育のニーズはもちろん、子供たちの可能性を広げたいという親のニーズに応える。スポーツ保育が子どもの将来に提供する可能性を、チェーロスポーツ保育園の取り組みを通じて改めて振り返ってみよう。

子どもとスポーツの関係は深い。子どもの運動機会の確保は、基本的な運動能力や体力の確保だけでなく、脳や神経機能の発達にも好影響をもたらすとされており、実証データも少なくない。

神経機能は6歳までに大人の約8割程度まで発達すると言われている。つまり、幼児期において脳と筋肉をつなぐ神経系のネットワークをしっかり構築することが、児童期以降の運動機能にも影響する。

スポーツ庁の「平成28年度体力・運動能力調査」によると、男女ともに入学前に外遊びをしていた頻度が高い子どもほど、体力テスト(6~11歳は握力、50メートル走、ソフトボール投げなど8種目)の合計点が高くなっていた。「幼児期運動指針」(文部科学省、2012年)では、幼児期に毎日合計60分以上楽しく体を動かすことを推奨しており、その効果として運動能力・体力の向上とともに、意欲的な心の育成、社会適応力、認知的能力の発達を挙げている。

入学前の外遊びの実施状況別新体力テスト合計点(10歳)(資料:スポーツ庁「平成28年度体力・運動能力調査結果の分析」から引用)
入学前の外遊びの実施状況別新体力テスト合計点(10歳)(資料:スポーツ庁「平成28年度体力・運動能力調査結果の分析」から引用)

また、子どもの学力とスポーツの関係についても、多くのデータが発表されている。例えばアメリカの小中学生95万人を対象にした調査では、心肺能力や筋力・持久力・体脂肪率など総合的な体力調査の成績が高い子どもほど、学力テストの成績が優秀な傾向があることが確認されたという(出所:スポーツ庁Web広報マガジンDEPORTARE「数字で見る! スポーツで身体に起こる気になる「6」つのデータ」)。

スポーツの「楽しさ」を前面に押し出した教育内容

一方、子どもたちの体力低下はかねて課題として取り上げられている。先にも触れた「平成28年度体力・運動能力調査」概要の「体力・運動能力の年次推移の傾向」の項から少し引用してみよう。「長期的にみると,握力及び走,跳,投能力にかかる項目は,体力水準が高かった昭和60年(筆者注:1985年)頃と比較すると,中学生男子及び高校生男子の50m走を除き,依然低い水準になっている」。デジタル機器の普及による「生活の屋内化」と併せて、コロナ禍による外出を控える傾向は、もし長く続けば子どもたちの知力・体力双方に影響することも考えられる。

そんな中、幼児期における運動機会の重要性に改めて着目して設立された保育園がある。茨城県つくば市に開園した認可外保育園「チェーロスポーツ保育園」がそれだ。専門性を有した指導者のもと、楽しく遊びながら運動能力を伸ばす環境を与えることを主軸とする。

同保育園の最大の特徴は、スポーツを軸に「楽しさ」を前面に押し出した教育内容を提供するところにある。近隣に立地する筑波大学の研究室と連携し、子どもたちの自発性を引き出す多様な運動プログラムを提供する。

同園に通うのは、1歳から5歳までの子どもたち。スポーツと冠した同園のその思想は、毎日午前中に行われる運動プログラムに反映されている。体操やかけっこ、縄跳び、鉄棒など、子どもたちが全身を使って活動する時間となっている。

運動プログラムで側転の練習をする子ども。段階を経て、少しずつ「できる」を積み上げていく(写真提供:チェーロスポーツ保育園、以下同)
運動プログラムで側転の練習をする子ども。段階を経て、少しずつ「できる」を積み上げていく(写真提供:チェーロスポーツ保育園、以下同)
エンボス企画代表取締役の小山勇気氏
エンボス企画代表取締役の小山勇気氏

体操の動きとしては側転ができることを最終目標としているが、決してスパルタ式には鍛えないという。同園が重視しているのは、先ほども触れたように子どもたちが「楽しい」と感じながら取り組めるようにすることだ。ブリッジやでんぐり返し、仰向けで寝転んだまま進んだり、障害物を飛び越えたり……といった、さまざまな動きを見よう見まねで行う子どもたちは、それが「運動」であるとは思っていないのだろう。楽しげで、笑顔と歓声があふれる。

同園の園長で運営法人であるエンボス企画の代表取締役を務める小山勇気氏は、次のように話す。「目指したのは、ただ夢中になって遊んでいるだけで、自然と身体能力が向上し、運動神経が発達するような保育の在り方です」。