教え方にこだわる

小山氏が同園のコンセプトを固める上で参考にしたのは、アイスランド・サッカー協会の強化策だ。アイスランドは人口約35万人の小国ながら、同じ欧州のサッカー大国に引けをとらない結果を残している。その根本には、限られた人数ゆえに一人ひとりを底上げさせる指導方針がある。優秀な指導者の育成と施設の充実にこだわり、サッカーを始めたばかりの子どもたちにこそ良い指導者に学ばせることを徹底しているという。

「最初に出会う指導者が、きちんと理論を学び、質の高い練習メニューを提供できる指導者であることで、子どもたちはサッカーが好きになり、もっとプレーしたいと思うようになります。その重要性に気づき、全員をもれなく大切に育てる体制作りに取り組んだアイスランドの成功は、自分がやりたいと思っていたことと合致し、保育園を立ち上げる原動力になりました」(小山氏)

新聞紙を破ったり、丸めて投げたりして遊ぶことも、手指感覚や握力、投げる力を養うのに効果的だという
新聞紙を破ったり、丸めて投げたりして遊ぶことも、手指感覚や握力、投げる力を養うのに効果的だという

この「もれなく大切に育てる」という方向性を具現化するべく重視したのは、スタッフの指導姿勢をそろえること。同園にはコーチングを専門的に学び、体操やサッカーの指導者ライセンスを持つスタッフが、小山氏を含め3人在籍する。加えてその3人はみな、保育士資格相当の幼児保育資格も持っており、他の保育士2人と協力して保育にも関わっている。スタッフが常時2~3人つく運動プログラムでは、「子どもがやろうとしたことに対して認めてほめる」「気持ちに寄り添いきっかけを逃さないで引っ張り上げる」といったコーチングの基本を徹底するよう意識しているという。

「スポーツを教えるプロの指導者が運動プログラム以外の姿も見ていますから、その日の機嫌や様子によって臨機応変にプログラムの内容を変えることもできます。そういう引き出しの多さや、子どもたちが『やりたい』と言ったことに対していかに寄り添えるか、といった部分は、スポーツ指導と保育の両方を学んだからこそ身についているものだと思います」(小山氏)

コーチングを基軸には据えているものの、定められた形式にこだわっているわけではない。子どもは、楽しそうに思えることなら自分からやりたがるもの。そのため、何よりスタッフが一番に楽しんで活動することが重要だと小山氏は強調する。同園によれば、近くの公園で子どもたちと歌いながら体操をしていると、見ていた小学生10数人が「一緒にやりたい」と加わってきたという。ちなみにその時の小学生たちは、スタッフや園児と一緒にそのままリレーやおにごっこも楽しんだそうだ。

スポーツに適した環境づくりで保育をサポート

指導法に加えたもう一つの特徴が、用具や場所といった環境づくりだ。特に子どもたちが使う用具については、運動の難易度を下げ、子どもたちの動きを誘発するものとして重視する。

同園では、小山氏が大学院まで学んだ筑波大学体育系の体操コーチング論研究室(長谷川聖修教授)と連携し、遊びの延長でトレーニングにつながるものを導入している。

その一つがバランスボールだ。エクササイズ用に開発された塩化ビニル製のバランスボールは、空気量の調節も簡単にできるため、小さい子どもでもつかみやすく、当たっても痛くない。投げたり、ボールに座ったり、お腹の下に敷いてバランスをとったりして使うほか、リレーをする時にもバトン代わりに使うという。「色もカラフルで視覚的にも楽しく、弾む音も面白いので、50個くらいのボールをバッーと投げるだけで、みんな喜んで追いかけたりして遊んでいます」と小山氏は話す。

小さいバランスボールは子どもたちのお気に入りだ。なお同園では「ソフトジム」(イタリアのレードラプラスティックが開発、日本での輸入総販売代理店はギムニク)という製品を使っている
小さいバランスボールは子どもたちのお気に入りだ。なお同園では「ソフトジム」(イタリアのレードラプラスティックが開発、日本での輸入総販売代理店はギムニク)という製品を使っている

このほか、クッションも日常的に使用する。同園で採用している特殊樹脂を成形した高反発クッションの「JPクッション」は、弾む感覚が楽しいだけでなく、適度にぐらぐら揺れるため、足踏みするだけでバランス感覚や体幹、インナーマッスルを鍛えることができるものだ。

長谷川教授のもと、同研究室では子どもから高齢者向けまで幅広い年齢層を対象にしたトレーニングメニューや体操プログラムを研究しているが、なかでも用具の効果的な使い方は重点的な研究テーマの一つ。同園の取り組みは、効果は実証されているものの歴史が浅いため効果的なプログラムが十分に開発されていない用具について、実践研究の場としても期待されている。

長谷川教授の研究室では「楽しく、笑顔満載の体操普及」を掲げていることも特徴だ。これが小山氏の「楽しい」のルーツとなっていることは想像に難くない。

環境づくりについてはもう一つ、子どもたちが思わず走り出したくなったり、転がったりしたくなる場づくりに力を入れているという。用意したのは、地域の民間施設の屋内運動スペース(882平方メートル)と、今年4月に完成したばかりの人工芝サッカーグラウンドだ。こちらを借りることで、子どもたちが思い切り体を動かせる場所を確保している。どちらも施設側とパートナーシップ提携し、利用者の少ない平日午前中に使用させてもらう代わりに、施設で行うアクロバットやサッカー教室の一部を園のスタッフが担当することで実現させた。

整備が行き届いた人工芝のグラウンドであれば、子どもものびのび走り回りやすい
整備が行き届いた人工芝のグラウンドであれば、子どもものびのび走り回りやすい

さらに、地元のNPO(特定非営利活動)法人からも申し出があり、運営する農場で自然体験や泥遊びなどもできるようになった。いずれも小山氏の出身である筑波大学卒業生のつながりから、「地域の子どもたちのために」と話が進んだという。