スポーツの原体験をコンセプトに反映

小山氏がチェーロスポーツ保育園を立ち上げようと思った理由には、自身がスポーツ幼稚園に通った経験から、幼児期のスポーツ教育の重要性を実感してきたことが大きいという。

「私自身、4歳からスポーツ幼稚園に通い、体操を中心に運動することが当たり前の環境で過ごしてきました。小学校に上がった時には同級生の誰よりも運動ができることに気づき、その後、大学までサッカーを続ける中で、幼少期のスポーツ経験の恩恵を大きく感じる場面に何度も出会いました」(小山氏)

小山氏によれば、成長期にスポーツを通じて自分が「できる」と思えたことの積み重ねが、自己肯定感を高めることにつながる。自己肯定感が高ければ、スポーツに限らず主体的な行動や、継続的な行動の積み重ねといった前向きな人生を構築する資質も身につけることができる。

同氏がプロの選手を目指して進学した筑波大学サッカー部では、監督が風間八宏氏、同期に川崎フロンターレの谷口彰悟選手らがいるレベルの高い環境が刺激になった。そういった経験やトップ選手の過ごしてきた環境を知ることで「きちんと理論を学んだ質の高い指導者のもと、幼少期から『当たり前の基準』が高い環境を継続することができれば、だれ1人置き去りにせず、より素晴らしい選手の育成や人間教育ができるのではないか」という思いに至ったという。

加えて、小山氏が、子どもたちの「楽しい」という気持ちを重視する理由は2つある。1つは先にも触れたように、かつての指導教官であった長谷川教授の影響。もう1つは、楽しさがなければ続かないことを小山氏自身が身をもって感じてきたからだという。

「(従来のスポーツ指導でよくあるような)自分で考えることすらできないくらい追い込むことで鍛えるという方法は、確かに一定の成果を期待できると思います。その一方で、結局スポーツが嫌いになってしまい、潰えていく才能が多いことも見てきました」(小山氏)。

小山氏は学生時代から約10年間、幼児から社会人までのサッカーを指導してきた経験があり、サッカーが好きで夢中になった子どもほど上達するスピードが速いことも実感してきたという。

すでに教育コンセプトに基づいた効果も

小山氏の右腕として同園の運営に携わる黒滝悠太氏(エンボス企画取締役)にも話を聞いた。同氏は小山氏の大学の後輩で、小学校教諭としての勤務経験もある。小山氏の思いに共感して保育園の立ち上げから参画した。保育園を運営するエンボス企画での各種業務を務めながら、指導スタッフとして保育にも加わっている。

「楽しいからやる、やるからできるようになる、できるから楽しくなる、またやる、さらにできるから楽しくなる、という『成長の好循環サイクル』に入れば、子どもはどんどん伸びていきます。そのサイクルには、やはり幼児期のほうが入りやすい。小学校に入る前の『根』を作る幼児期の教育が重要だというところで小山さんの想いと合致しました」と黒滝氏は語る。中でも、運動が脳の発達に良い影響を与えるという仮説については海外の論文なども調べ、意識して取り組んでいるという。

「運動と脳の発達の相関関係についてはアメリカなどで相当研究されており、明白なものとなっています。特に足の裏からの刺激の量が重要だとされていますから、我々も運動する時は裸足で行うようにしています」(黒滝氏)

現在、園の登録者数は1歳から5歳までの24名。一時預かりも行っており、毎週申し込みがあるという。運動プログラムでは発達に応じた課題に挑戦させることもあるが、異年齢の子どもたちみんなで取り組む課題を多く取り入れ、チームワークや協調性が自然と身につくことも重視している。

「1歳の子がもうリレーを理解していて、ボールを持って走って次の子に渡して、みんなができたら拍手して、ということができるようになっています。年上の子たちがやっていることを真似したくて一緒にやりたくて仕方ないんですね」と小山氏は話す。

取材時点では園が始まって約2カ月ほどだが、保護者から「足が速くなった」「以前は家で駄々をこねることが多かったが、今は満たされているようでとても落ち着いている」という話が寄せられるなど、子どもの変化について前向きな感想も増えているという。「ほめるって、こんなに大事なんですね」と言われたこともあるそうだ。

「ここでスポーツに出会った子どもたちが、どう育っていってくれるか、ワクワクしています。ただ、今のままでは卒園後は見ることができないので、将来的にはスポーツクラブか学童保育をつくり、12歳まで継続して指導できるようにしていきたいと考えています」と小山氏。スポーツは誰に対しても開かれているものであるべきと考える黒滝氏は、さらにもう一段高い理想として、会費だけに頼らない新しいビジネスモデルで運営するスポーツクラブの設立を目指す。

学術・研究都市つくばから広がる、子どもたちの未来に期待したい。同時に、スポーツが拓く子どもたちの可能性にも改めて注目だ。