自身も高校までサッカーに打ち込んでいたという小國氏は、サッカー選手のセカンドキャリアの問題について、こう語る。

「基本的に高校でサッカーを辞める人が多い中、大学までサッカーを続ける人はレベルも高く、プロを目指している学生も少なくありません。ただ、サッカー部員はサッカーだけやっていればいいという考え方がまだまだ強くあり、部活を優先して就職活動も十分にできないことがあると聞いています。サッカーではすごい選手だったのに、就職してビジネスの世界に入ると、高校から仕事をしている人や大学で学業に励み、業界研究や自己分析をしっかり行って就職活動してきた人のほうが上に立つことも多いようです。30歳前後になって『学生時代に学業とも両立して、就職活動をきちんとやっておけばよかった』という声を至るところで聞きました」

その一方、夢をかなえてプロになっても、長く続けられる選手はごく一部だ。小國氏は次のように続ける。

「現実的には選手寿命は非常に短い。25~26歳で契約満了となる選手も多いのですが、そうなった時が一番困っているイメージを持っています。企業というものがわかっていないし、選手としてやってきた誇りはあるがサッカー以外の部分で自分についても分析できていなかったりする。そうするとサッカーを辞めたとたんに『何をやったらいいんだろう』と途方に暮れてしまうわけです。また、そこから就職活動を始めても、新卒のタイミングを逃してしまうと企業から説明会などをしてくれる機会は少なくなりますし、新卒よりも厳しい目で見られてしまいます」

Football Assistの取り組みはまさに、「そういった現状に対して何かできないか、サッカーを努力してきた人たちが報われる世界を作りたい、という思いから始まっている」(小國氏)のだという。

今回のセカンドキャリアプロジェクトもその問題意識の延長線にあるが、小國氏はIT業界が変化していることもスポーツ経験者が参入する追い風になっていると指摘する。

例えばコードを書けなくても業務アプリケーションが開発できる「ノーコード」の技術や、画面上の部品を選択していくことで高度なWebデザインができる技術の登場によって、ITエンジニアに求められるスキルの幅が広がっていることが一つ。また、システムを開発するスキルとともに、システムを使う顧客の満足度を上げるためにどうサポートしていくかという部分も重視し、営業寄りのエンジニアを採用する企業が増えていることが大きいという。

「技術的に高度なことができるようになれるかどうかは、正直に言いますと向き不向きがあると思います。ただ、例えばお客さまに寄り添ってご要望をくみ取ったり、お客さま側で必要な事項をお願いしたりすることは、システム開発を成功させる上ではとても重要です。そこで、こうした人間的な部分を重視してエンジニアを採用する企業が多くなっていますので、これまでスポーツで培ってきたスキルを活かして十分活躍していくことはできると考えています。例えばプロジェクトをまとめていくディレクターといった上流工程のポジションなども、リーダーシップや協調性という部分で、意外と部活動出身者にも合っているのではないでしょうか」(小國氏)

アスリートからIT業界への転身が当たり前の未来を創る

新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年以降、H.R.Iには「働きながらITエンジニアを目指したい」という応募が急増しており、平均して月1300件にも上るという。しかし、セカンドキャリアプロジェクトを始めるまでは、スポーツ経験者からの応募はほぼゼロだった。

「スポーツ選手にセカンドキャリアとして何を考えているかを聞いてもITエンジニアはほぼ出てこないし、こちらから提案しても『無理でしょう』と言われるのが現状です。この常識をぶち壊したい」と、溝橋氏は力を込める。同社が目指すのは、スポーツ選手のセカンドキャリアとしても、ITエンジニアを目指す選択肢が当たり前になる世界だ。

そして、それが実現すれば、スポーツ選手を目指す若者にとっても、セカンドキャリアについて思い悩むことなく、燃え尽きるまで競技に集中できる。

「第二の矢が信じられれば、第一の矢を思い切り放てる、と僕は思っています。そのためには、1人ずつしっかり育ててITエンジニアとして活躍するスポーツ経験者を増やし、あの人がなれたのなら自分もなれる、と思える状況を創り出したい。将来的には、PM(プロジェクトマネージャー)やCPO(チーフプロダクトオフィサー:ソフトウエア製品およびサービスの総責任者)といったポジションにスポーツ経験者が就く未来を創りたいと思っています」(溝橋氏)

セカンドキャリア支援プロジェクトは今後も継続し、パイオニアとしてIT業界に挑戦するスポーツ経験者を年齢に関係なく募集していく。必ずしも手を挙げた全員が活躍できる甘い業界ではないが、IT業界でも輝く元アスリートが多く誕生すれば、人生100年時代に生きる私たち全員のセカンドキャリアの希望にもなるだろう。