少子化による部員不足や教師の働き方改革を背景に、公立中学校の部活動を地域の民間スポーツクラブなどに移行する動きが加速している。「シブヤ部活動改革プロジェクト」を進める東京都渋谷区では、渋谷区にゆかりのある企業や施設、プロスポーツ関係者・競技団体などの支援を受け、地域移行の先進的な試みを進める。ダンス、フェンシングといった従来の区立中にはなかった種目でも学校の枠を超えて生徒が集まり、専門的な指導を受けられる。一方、AI(人工知能)技術を用いた「スマートコーチ」で部活動を支援するサービスも始まった。部活動の未来像を追う。

ダンス、フェンシング、ボッチャ…渋谷区で8校合同の部活動

「他の中学から来ている子とも仲良くなれた」「プロの先生から教えてもらえてうれしい」――6月25日午後、東京都渋谷区立上原中学校に集まったダンス部の生徒たちは90分間の練習に汗を流した後、そう言って笑顔を見せた。

渋谷区では2021年11月から区立中学校8校(小中一貫校を含む)合同の部活動をスタートさせた。2022年度は、サッカー、ボウリング、ダンス、ボッチャ、将棋、デジタルクリエイティブ&eスポーツ、フェンシング、ラグビー、料理・スイーツマスター部の9種目で、主に土曜午後に活動する。指導は区内で活動する団体 やプロの競技者などに委託し、区立中学校や区の施設のほか、例えばボウリングは区内にある民間ボウリング場、料理・スイーツマスター部は調理専門学校で行っている。

8校合同の部活動を行うにあたり、区では事前に生徒にアンケートをとって設置してほしい部活動を募った。ダンス部は従来の区立中学校の部活動にはなく、生徒の要望が多かった活動の一つだ。2021年度は10人、2022年度は35人の女子生徒が所属する。練習は4月から来年3月まで、土曜午後に計35回程度を予定している。

プロダンサーの指導が受けられる渋谷ユナイテッド・ダンス部のレッスン(撮影:栗田 洋子)
プロダンサーの指導が受けられる渋谷ユナイテッド・ダンス部のレッスン(撮影:栗田 洋子)

土曜授業を行う学校もあるなか、この日の練習には1、2年生27人が集まった。別の中学校区から電車などを利用して通う生徒も多い。講師を務めるのは、同区に本社があるサイバーエージェントのプロダンスチーム「CyberAgent Legit」所属のダンサーだ。

同チームは「未来のダンサーとして活躍する可能性を持つ中学生に夢を与えたい」という思いから、このプロジェクトに共感し参画したという。チームのディレクター(監督)を務めるFISHBOYさんがレッスン内容などを監修し、この日はメンバーの1ch(イチ)さんとKotoriさんが直接指導にあたった。

1chさんらの呼び掛けに「こんにちは!」「お願いします!」と元気にあいさつする生徒たち。音楽に合わせてジャンプやストレッチを行い、ウオーミングアップを兼ねて気持ちを乗せていく。体がほぐれると2グループに分かれ、一つのグループは難易度の高い振り付け、もう一つは基礎的なステップを習っていた。数回設けられた水分補給の少しの時間にも生徒同士でステップを教え合うなど、ダンスへの向き合い方は真剣そのもの。自宅でも練習できるよう、お互いにスマートフォンを交換して撮影し合う時間もあった。

初めてダンスを習う生徒から、ダンススクールにも通う経験者の生徒まで、生徒のスキルは幅広い。2グループに分けての指導は、生徒のニーズに応えた形だという。その日の練習でどちらのグループに入るかは生徒が選ぶ。

「初心者から始めた生徒さんたちもタイミングが合うようになってきて上達を感じています。表情もどんどん明るくなっている」とFISHBOYさん。講師全員で「ダンスは楽しい」と思えるようなポジティブな声かけやコミュニケーションを心がけているが、部活動として指導する今回は特に、あいさつや掃除、後片付けといった「教育」としての部分にも気を配る。

2021年度は生徒たちが選んだ曲にダンスを振り付け、部員全員で踊る動画を作成した。2022年度は動画の作成だけでなく、発表の場を設けることも検討中だ。これまでに小中高校の特別授業などでも指導した経験を持つFISHBOYさんは「ダンスの良さは、一つの作品でも場面を分けてそれぞれのスキルや個性を見せるパートを作れること。その一方で、みんなで一つの作品を作り上げるので、一体感が生まれる素晴らしさもある」と話す。

加えて「普段の学校生活では目立たなかったりする子にも、ダンスなら目立つ場面を作ることができる」とFISHBOYさん。「ダンスをやりたいと来てくれた子たちが輝く瞬間をつくりたい。ここからすごいダンサーが出てくれたらうれしいですね」と期待を込める。Kotoriさんも「シャイで引っ込み思案だった自分もダンスを通して変わることができた。もし同じ悩みを抱える子がいたら、そんなふうになってくれるといいな」と話す。

学校内の吹奏楽部と兼部しているという日吉美結さん(1年)は「運動は苦手ですが、楽しく体を動かせそうかなと思って入部しました。他の中学の子と仲良くなれる機会は他になく、それも楽しい」と声を弾ませた。小学生の時からダンスを習っているという藤村多音さん(1年)も「学校では入りたい運動部がなかったので、こういう部活動があって良かった。こんなにきちんとした先生に教えてもらえて本当にうれしい」と微笑んだ。

区内の企業・団体が指導 9種目に生徒200人が参加

ダンス部では、FISHBOYさんらが担当するダンスレッスンに加え、ダンスによる有酸素運動や体幹トレーニングのレッスンも行う。このトレーニングは、ダンス&ボーカルグループ「EXILE」のダンサー、TETSUYAさんが考案したもので、EXILEが所属する株式会社LDH JAPANから講師が派遣される。TETSUYAさんは日本卓球協会の12歳以下ナショナルチームのコンディショニングコーチにも就任しており、注目のトレーニングだ。

ダンス部だけでなく、サッカー部は元日本代表の藤田俊哉さんがアドバイザーを務め、プロボウラーや日本将棋連盟の指導棋士が講師を務めるなど、その道の「プロ」の指導や先進的なトレーニングが受けられるのが、新しい部活動の魅力の一つだ。

このほか、東京医科歯科大学 やアシックスの協力を得て行う「コアプログラム」、伊達公子さんがスペシャルアドバイザーを務める硬式テニスイベントなども予定する。コアプログラムは、室伏広治・スポーツ庁長官らが開発・研究を進めているトレーニングプログラムで、楽しく取り組める体力テストなどから自分の体の特性を知り、けがを予防しながら効率的な体の動かし方を身に付けることを目指す。

渋谷区の委託を受け、学校の枠を超えた部活動を推進する組織として2021年10月に設立された一般社団法人渋谷ユナイテッドの石谷望事務局次長は「渋谷区は支援していただける企業や団体に恵まれており、そのリソースが強みだと思います」と話す。渋谷ユナイテッドの代表理事は区教育委員会教育長を務めた豊岡弘敏氏。石谷氏は区スポーツ部スポーツ振興課から出向しており、9つの部活動の運営を担う。