7月24日から8月9日までという真夏の開催となる2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、暑さ対策が課題の一つとなっている。五輪開催まで1年を切った今夏、東京2020組織委員会と東京都が、実際の五輪会場で行われる5競技のテストイベントにおいて、観客らに対する暑さ対策の検証を行った。この検証結果を通じて、効果的な方法を探るという。過去の大会でも類を見ない酷暑が予想される東京で、世界中から訪れる観客の健康と安全をいかに守るか。日本の技術と知恵が試される。

都内で35度を超える猛暑日となった2019年8月17日。この日完成披露式典が行われた大井ホッケー競技場でテストイベントが実施された。観客の暑さ対策として、会場近くで濡れ感のほとんどない極微細ミストの噴霧や散水などを行い、紙製帽子や氷を詰めた氷のうも配布した。

大井ホッケー競技場そばに設置された植栽型ミストで涼む観客

「気持ちいい」、ミストが人体を直接冷やす

この日、極微細ミストは、ミストのみ噴霧、屋根だけのテントの上部から噴霧、ベンチ付き植栽ユニット内で噴霧の3種類の設置方法が試された。午前11時時点で、暑さ対策を行っていない場所の暑さ指数(熱中症の危険度を判断する数値、WBGT)は32.7度を示し、環境省が「すべての生活活動で熱中症になる危険性がある」とする28度を大きく超えていた。一方、同時刻のミストのみの場所は31.4度、屋根付きミストは29.9度、植栽ユニットは29.3度と、対策しない場所よりも数値は下がったものの、28度を下回ることはなかった。

ただ、ミストは気化熱によって人体を直接冷やす効果が大きい。ミストを浴びた来場者からは「気持ちいい」との声が上がっていた。イベントの開催中は競技場内の観客席でも、スタッフがミスト噴霧器を背負い、観客にミストを噴射したという。この日も氷のうの氷がすぐに溶けてしまうような暑さだったが、五輪本番では屋根なしの仮設スタンドを設置するため、さらに過酷な状況での観戦が予想される。

屋根付きミストで涼む人たち。日よけのテントの素材もさまざまなものを試している

検証を通じて効果的な暑さ対策を模索

今夏、暑さ対策の検証が行われたのは、ホッケー(8月17~21日、大井ホッケー競技場)のほか、ビーチバレーボール(7月24~28日、潮風公園)、ボート(8月7~11日、海の森水上競技場)、トライアスロン(8月15~18日、お台場海浜公園)、マラソン(9月15日)の5競技。暑さ対策は組織委員会が競技場内を担当し、東京都が「ラストマイル」と呼ぶ最寄り駅から会場までの道のりや、マラソンなど路上で行う競技の沿道を担当している。

観客向けの主な暑さ対策として考えられているのは、ミスト噴霧装置や休憩所、日よけテントの設置、扇子や保冷剤といった暑さ対策グッズの無料配布など。また、会場内だけでなく、ラストマイルにも熱中症などの体調不良者や負傷者に対応する救護所を設ける予定だ。

テストイベントでは、それぞれの会場で異なる暑さ対策を試行した。ビーチバレーボールの会場では、エアコン付きの休憩所や大型のミストタワー、扇風機、ウオーターサーバーを備えたサーカス型テントを設置した。手荷物検査のテストも行われ、冷風機付きのテント内に子どもや車椅子利用者、外国人ら150人が並んだ。また、東京都医師会の協力を得て、医師と看護師が常駐する救護所を設置し、患者搬送のシミュレーションなども行われた。期間中、実際に数人の観客が救護所を利用したという。

最寄り駅から会場までシャトルバスで観客を運ぶボート会場では、バスを待つ観客の暑さ対策として、20メートル×10メートルほどの大きな日よけを張り、上部からミストを噴射した。このほか、マラソンではコース近くの芝公園と共立女子大学にスポットクーラーを備えた休憩所を設置。9月13日に行われたカヌーのテストイベントでは、観客席に降雪機で作った雪を降らせる実験まで行われた。

観客に配布する氷のうに氷を詰めるスタッフ。期間中に400個配布した

都によると、ミストは濡れ感のあるタイプとないタイプの2種類を用意し、上から噴射したり、横から噴射したり、植栽と組み合わせたり、設置場所も変えて試している。日よけのテントの材質や形状も変え、無料配布する暑さ対策グッズについても、さまざまなものを用意した。対策を行っている場所で暑さ指数を計測し、観客やボランティア(シティキャスト)にアンケートを行うなどして検証し、効果的な暑さ対策にブラッシュアップしていく。