ホッケー会場でも最寄りの大井競馬場前駅から競技場まで徒歩約8分で、公園内に入るまではほとんど日よけになるような建物や木はなかった。こうしたラストマイルの問題に加え、手荷物検査でも長蛇の列が予想される。さらに、屋外競技では観客席も相当な暑さを覚悟しなければならない。東京2020組織委員会では、従来は観客席に持ち込み禁止だったペットボトルの持ち込みができるよう検討中で、観客の予防を啓発するため、会場周辺の暑さ指数や暑さに関する注意情報、熱中症予防の対策などを知らせるアプリを開発し、活用していくという。

吉迫武・東京都環境局総務部自治体連携推進担当課長(オリンピック・パラリンピック調整担当課長兼務)は「日本の暑さに慣れていない外国からの観光客も多く、ラストマイルでも混雑が予想されます。ミストや休憩所の設置場所は調整中ですが、さまざまな対策を試して検証し、大会の成功に向けてしっかりと対策を取っていきたい」と話す。

「テストイベントで行った対策を検証し、より効果的な暑さ対策をとっていきたい」と語る吉迫氏

暑さ対策はもはや社会課題 最新式のミスト冷却機器に期待

地球温暖化に加え、都市部ではヒートアイランド現象の影響で、夏の暑さは一段と厳しくなっている。昨夏(5~9月)の熱中症による救急搬送者は全国で9万5000人を超え、今夏も7月22日から8月25日までの1カ月で4万7000人以上が熱中症で救急搬送され、初診時点での死亡も99人に上った。東京五輪にとどまらず、暑さ対策は日本の社会課題と言える。

そんな中、屋外における暑さ対策として、効果が期待されているのが、五輪のテストイベントでも活用された最新式のミストだ。濡れ感のほとんどないミストは、平均粒径6~10マイクロメートルという細かい粒が特徴となっている。浴びても快適なことに加え、蒸発性が高く発汗以上に人体を直接冷やす効果があり、体感温度は4度下がるというデータもある。

ビーチバレーボール会場に設置された大型ミストタワー。横から噴射するミストが好評だった(写真提供:パナソニック)

開発したパナソニックによると、従来のミストの粒径は約20~35マイクロメートルと大きいため、近づくと濡れてしまい、3~5メートルの高所から噴霧するものが多かったという。一方、同社の簡易施工型ミスト「グリーンエアコンFlex」は独自に開発した2流体ノズルを用い、空気圧でミストを微細にすることに成功。空気を使うことで、ミストを横から噴霧することも可能になり、設置場所の自由度が高いことが特徴だ。テストイベントでも、低い位置から横に噴霧するミストは、背の低い子どもや車椅子利用者などが直接ミストを浴びることができると好評だった。

なぜ屋外の暑さ対策は、エアコンなどではなくミストなのか。五輪のワールドワイドパートナーであるパナソニックでは2014年に「東京オリンピック・パラリンピック推進本部」を設け、2020年とその先のレガシーに向けてどう貢献していくかを検討し、事業活動を推進してきた。その一つである暑さ対策のプロジェクトを立ち上げる際、「屋外では、冷却よりも排熱が多く、ヒートアイランド現象を助長するエアコンよりも、排熱の少ないミスト冷却機器のほうが、社会課題の解決策としてふさわしい」と結論づけたという。

「五輪だけでなく、その後のレガシーづくりのため、社会課題の解決に貢献したい」と話す田中良和氏

同推進本部戦略企画部プロジェクト推進課主務の田中良和氏は「これまで培ってきた空調の技術を核に、屋内はエアコン、屋外はミストで、シームレスに暑さ対策に貢献し、大会の成功はもちろん、健康面や経済活動面にも影響する都市温暖化という社会課題の解決に役立っていきたい」と話す。

今年4月に発売された常設型のミスト冷却機器「グリーンエアコン」は、東京都港区の新橋SL広場や五輪のトライアスロン会場となるお台場レインボー公園に設置され、今年7月から稼働している。常設型は、旋回状の気流を作るトルネード型エアカーテン送風によって、横風の影響を受けにくい直径2メートルのドーム型空間を形成するもの。極微細ミストがドーム型空間内に広がり、体感温度は7度下がるという。

新橋駅前のSL広場に設置された常設型の「グリーンエアコン」。気象予報情報と連動し、ミスト噴霧の強度を変えるといった自動制御の機能も搭載している(写真提供:パナソニック)

簡易施工型の「グリーンエアコンFlex」も今年9月に発売。既に東京都葛飾区や神戸市、横浜市と暑さ対策に関する協定を結び、公共施設などで実証実験を開始している。教育現場でも暑さ対策が重要視される中、横浜市では小学校の校庭にも設置した。

パナソニックアプライアンス社カンパニー戦略本部事業開発センター・グリーンエアコンプロジェクト総括担当(プロジェクトリーダー)の尾形雄司氏は「当社のノズルは、空気の圧縮率を極力下げながら細かなミストが出るように工夫している。このため、空気を高圧にするためのコンプレッサーを小型化することができ、例えば公園の中央に設置することも可能になった」と高度な技術が可能にした製品であることを強調した。ノズルには成型が難しい、非常に耐久性の高い樹脂を使用していることも同社独自の工夫だ。これにより長期間の屋外使用が可能となることに加え、軽量である特徴を生かし、よりフレキシブルな施工が可能になった。

フレキシブルな施工が可能な「グリーンエアコンFlex」の機器を紹介する尾形雄司氏

用途も広がっており、例えばミストの下で食事をとる、ミストのそばにプロジェクターを設置し映像を見るといったことも、濡れにくいミストであれば可能だ。人に限らず、濡れすぎが病気につながる農作物への利用も、一定の効果が認められているという。さらに、ミストに消臭効果のある同社のナノイーの技術を加え、ミストで涼む間に汗のにおいもリセットできるような使い方も考えられている。

尾形氏は「屋外の冷却設備として、少ない電力でそれ以上の冷却効果が得られるミストは、持続可能な社会の実現に向けて、非常に社会的大義の大きい製品だと考えている。ミストが未来の都市のインフラの一部として認められるよう、広めていきたい」と話している。