人々に驚きと感動を与える、スポーツの好プレー。その好プレーぶりをわかりやすく示す新技術が「3Dトラッキング」だ。「ワールドカップバレー2019」のテレビ中継で、この技術を使った映像が放送された。ボールの3次元位置情報をリアルタイムで計測、実像にボールの軌跡やスパイクの高さ・速度などの情報を重ねて表示する。この映像は中継された海外でも話題になったという。スポーツ観戦の新たな楽しみ方を提供する新技術の可能性とは。

今秋行われた「ワールドカップバレー2019」のテレビ中継。カメラで捉えた映像からボールの3次元位置情報をリアルタイムで計測する「3Dトラッキング」が初めて適用された。好プレーのリプレーに、色鮮やかなボールの軌跡、スパイクの高さや速度などのデータが重ねられた映像は、中継された海外でも話題になったという。

ボールの軌跡をCGで自動表示したリプレー映像(フジテレビより。※画像の一部を編集部で加工してあります)

解析にかかる時間はわずか1秒前後

国際バレーボール連盟が4年に1度開催するワールドカップバレーは、オリンピック、世界選手権と並ぶ3大大会と位置づけられており、1977年大会から毎回、日本で開催されている。1977年大会からテレビ中継をしているフジテレビが今大会で採用したのは、映像からボールなどの軌跡や速度、高さ、角度などのデータを算出する映像解析技術「3Dトラッキング」だ。バレーボールに特化した3Dトラッキングはパナソニックが開発。フジテレビと共同で、実用化に向けて大会ぎりぎりまで試行錯誤を重ねたという。

コートを見下ろす4隅に放送用とは別のカメラを設置し、4台をぴったり同期させて撮影する。その映像からAIがボールの動きを追跡し、3次元の位置情報を瞬時に解析。1秒間に30コマのボールの位置情報から、アタックの速度や高さ、トスからアタックまでの時間、レシーブの角度など、すべてのプレーのデータを算出できる仕組みだ。同時にチームの判別や背番号、サーブ、レシーブ、トス、アタック、ブロックというプレーの判別もAIが行っている。解析にかかる時間はわずか0.8秒~1.4秒だ。

このデータをフジテレビが受信し、ボールの軌跡やデータをCGで自動表示するシステムを使って実際のプレー映像に合成する。その映像を、ディレクターの判断で適宜、リプレー映像として放送している。実際のプレーの2秒後に、CG合成した映像を流すことができるという。ボールの軌跡は、トスは緑、アタックは青、レシーブはピンクなどプレーごとに色分けし、ビーム光線のように表示するなど、より視聴者が興味を持って見ることができるよう工夫を凝らした。

フジテレビニュース総局スポーツ局スポーツ制作センタースポーツ部ゼネラルプロデューサーの吉田昇氏は「40年以上バレーボール中継をしている伝統がありながらも、視聴者に視覚的なインパクトを与える新しいアプローチを探していました。バレーボールに興味がない人にも、よりリアルに面白いと思って見てもらえるのではないかと考え、この技術を採用しました」と話す。

テレビゲームやアニメに慣れ親しんでいる若い世代にもアピールできるビジュアル面でのわかりやすさに加え、見事に決まったアタックの映像とともに「高さ316cm、速さ112km/h」といったデータを瞬時に提供することで、従来からのバレーボールファンにも新鮮な驚きを与え、新しい観戦の楽しみ方を提供している。視聴者からも「プレーが可視化されてわかりやすい」「面白い」など好意的な声が多く、中国のテレビ局からも問い合わせがあったという。

アタックの高さと速度の表示が、選手のすごさを可視化する(フジテレビより)

「解説の川合俊一さんも『こんな映像は見たことがない』と驚かれていました。レシーブの角度が数値化されているのも初めて見た、と。『角度が何度だったらどうなのか、ということを考えるきっかけになった。そういう部分まで踏み込んで解説したい』と話していらっしゃいました。いただいているデータの中から一部を抽出して放送に使用しているのですが、今後もっとさまざまなデータを応用していくことができると、また違った演出や解説が可能になるかもしれません」と吉田氏。

4年前の大会でもアタックの高さと速度は表示していたが、放送できるまでに時間がかかったという。今回はデータの受送信もスムーズになり、実際のプレーの直後のリプレーで放送することが可能になった。ただ、生中継の放送では2秒でも、このリプレー映像を出せるかどうかギリギリの判断になることがあるといい、データ処理がさらに高速にできるようになれば、さらに演出の可能性は広がると期待している。

「選手の喜怒哀楽が出やすく、視聴者が乗ってくれやすい、だれもが知っているバレーボールをさらに面白く伝えたい」と話す吉田氏(写真撮影:山本尚侍)