選手の隠れたポテンシャルや新たな戦術発見の可能性も

テレビ観戦の新しい楽しみ方を提供するエンターテインメント的な利用方法だけでなく、3Dトラッキングで得られたデータは選手のパフォーマンスや戦術の向上にも役立てられる可能性がある。

一般社団法人日本スポーツアナリスト協会の渡辺啓太・代表理事(桐蔭横浜大学スポーツテクノロジー学科)によると、数年前に国際バレーボール連盟が3次元のトラッキングシステムを構築しようとしたが、実現しないまま計画は頓挫したという。

渡辺啓太・一般社団法人日本スポーツアナリスト協会代表理事(写真:編集部)

「データの取得方法として現在注目されている技術は、ウェアラブルセンサーを用いたセンシング技術と、映像から解析するトラッキングがありますが、センシング技術はより精密なデータが取れる一方で、自チームにしか使えません。その点、トラッキングは相手チームのデータも取得できるメリットがあります」と渡辺氏。バレーボールでは試合のデータを記録して分析することは1990年代から行われてきたが、3Dトラッキングシステムの自動解析で得られるデータは、これまで取れなかったようなデータが多いという。

例えばサーブの減速率。サーブの初速は従来から計測されているが、ネット上を通過する時点やレシーバーに到達する時点の速度はこれまで計測できていなかった。減速率の分析が進めば、緩急の幅という視点でサーブを見直すことができるかもしれない。

「膨大なデータは、食材で言えば今まで全く調理したことがなかったもの。今はまだ、これをどう調理すれば選手の強化につながるのかを模索している段階ですが、これまで見えていなかった選手の隠れたポテンシャルや新しい戦術の発見につながる可能性もあると思います」

ディープラーニングによる画像認識技術をスポーツ解析に応用

3Dトラッキングシステムを開発したのは、パナソニックでパスポート読み取りを行う空港の顔認証ゲートをはじめ、ディープラーニングによるセキュリティ用途での人物検出や店舗向けの物体検出の開発を行っている部署。そこで培ってきたコア技術をスポーツ解析に応用し、3年かけて開発に成功した。

会場内のパナソニックの作業ブース。正確なデータを送信するため、サーブと最終アタックの選手はオペレーターが画像でも確認している(写真撮影:山本尚侍)
3Dトラッキングシステムを開発したパナソニックの古山氏(左)と藤島氏(写真撮影:山本尚侍)

パナソニックコネクティッドソリューションズ社イノベーションセンター・センシング事業統括部ソリューション開発部先行開発課主任技師の古山純子氏は「スポーツ解析は画像サイズが大きいうえ高フレームレートであり、処理量が多いところが難しい。まずは弊社にチームがあるアメリカンフットボールやサッカーで2Dトラッキングの開発をスタートし、選手の移動に規則性がある競泳選手のトラッキングに取り組んだことが分岐点になりました。競泳でテレビ中継映像として使えるまでブラッシュアップできたことから、弊社にチームがあり、実用に向けた協力関係を構築可能なバレーボールで3Dトラッキングに挑戦することになりました」と開発までの経緯を語る。

パナソニックでは、今冬からVリーグの男子チームにリアルタイムでデータを提供する試みを実験的に行う予定。試合中に監督やコーチのタブレット端末で、3Dトラッキングで取得した映像やデータを見ることができるようにし、チーム強化につなげてもらうという。将来的には学生などのアマチュアチームにも提供し、選手育成につながるビジネスモデルの構築も視野に入れている。また、「このプレーのデータを見たい」「あの時のボールの軌跡と今の軌跡を比較して見たい」という一般のファンが自分のスマートフォンなどで検索して見ることも、技術的には可能だという。

パナソニック東京オリンピック・パラリンピック推進本部スポーツ事業推進部事業開発課主幹の藤島幸治氏は「東京五輪後も日本のスポーツ界が発展していけるよう、視聴者がスポーツ観戦をもっと楽しむためのサポートだけでなく、選手やチームの強化の面でも我々の技術で貢献していきたい」と話している。