東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場として使用される、新しい国立競技場が3年をかけて完成した。完成後初のスポーツ公式戦だった元日の天皇杯サッカー決勝、1月11日の大学ラグビー決勝も5万7000人を超える満員の観客で盛り上がり、新たな「聖地」の門出を印象づけた。世界中が注目するなか、感動を呼ぶ、“魅せる”ナショナルスタジアムになり得るのか。日本が誇る先進の技術を結集した大規模施設の舞台裏に迫った。

最大傾斜34度、すり鉢状の観客席が一体感を演出

新しい国立競技場は、木をふんだんに使い「和」を感じさせる外観である(写真:吉成大輔)

4階の通路からスタジアムに出ると、視界に鮮やかな天然芝と赤茶色の陸上トラック、そして、満員の観客で埋め尽くされているようなアースカラーのスタンドが広がった。大屋根の丸く開いた空間から、冬の青空がのぞく。昨年末、報道陣を対象とした内覧会に参加し、完成直後の国立競技場に入った。

4階の車いす席から。どこからも見やすく、歓声が選手に届きやすいスタジアムであると感じた(写真:吉成大輔)
3層中段の観客席から(写真:吉成大輔)

驚いたのは、見下ろしたグラウンドが近く感じられたことだ。聞けば、観客席はすり鉢状の3層構成になっており、1層目は20度、2層目は29度、3層目は34度と上に行くほど勾配が強くなっていた。34度という角度に驚き、「選手と観客の一体感を創出するスタンド」という説明をもっと詳しく知りたいと思い、JVの一員として国立競技場の設計・監理を行った梓設計を訪ねた。

永瀬秀格・アーキテクト部門BASE3主任(新国立競技場設計担当)(写真:筆者)

梓設計は国内トップのスポーツ施設の設計実績を持ち、国立競技場建設には最初のデザインコンペ、白紙撤回された旧計画の設計にも参画していた。長年の取り組みを生かし、新計画では大成建設、隈研吾建築都市設計事務所とともにJVを組んで完成にこぎ着けた。応対していただいた永瀬秀格・アーキテクト部門BASE3主任(新国立競技場設計担当)も、最初からずっとこの一大プロジェクトに関わってきた一人だ。

「スタジアムを設計するうえで、スタンドの傾斜はとても大事です。まずは観客が見やすいこと。そして、選手に高揚感を与えられること。スタンドの勾配がきつく壁のようになるほど、選手は観客に囲まれていると感じ、どの観客も選手を近くに感じられます。3層にしたのは、下層より上層を前にせり出すことで、その分上層部をフィールドに近づけられるからです。2層だとどうしても、上の席に行くほどフィールドから離れていってしまいますから。ただ、勾配がきつすぎると危険で、階段の1段も高くなりすぎてしまいます。安全性と見やすさのバランスに配慮しながら、建築基準法や条件を満たす計画としました。3層目の34度のスタンド傾斜はFIFAの基準の最大値であり、安全に配慮し手すりを設置しています」

傾斜34度の最上段席を見る。かなりの急勾配に見えるが、安全性には配慮されている(写真:吉成大輔)

安全を確保しつつ勾配を大きくすることで、観客と選手の距離を可能な限り近づける。「選手が観客からぐるりと囲まれ、全方向から応援されることで、より一体感を演出できると考えました。ウエーブが途切れず、ずっと周り続けるイメージです。そのため、国立競技場は3層スタンドのトップラインをすべてそろえ、360度ほぼ同じ断面になる構造にしています」と永瀬氏。天皇杯サッカーの決勝や大学ラグビー決勝の早明戦では、満員の観客の声援やどよめきがスタジアム内に大きく響き、試合を盛り上げていた。