第2の皮膚――。そんな表現が当てはまるほど、何かを身に着けている感覚は全くといっていいほどない繊維素材がある。花王が開発した積層型の極薄膜「Fine Fiber」だ。スキンケアやメイクなど、様々な効果を期待できる。考え方次第で、用途はヘルスケア/医療、さらには電子機械やインフラなどもっと別の領域にも広がるかもしれない。

繊維1本の直径が0.5ミクロンという世界になると、繊維の柔らかさなどの性能が桁違いに高まる。この事実は、既に10年以上前から知られていた。ただ、それをどのような用途に生かせばいいか、どうすればその性能を最大限に活用できるのか、その応用方法がはっきししていなかった。

これが、一つの仕組みによって、にわかに考えやすくなってきた。0.5ミクロン、120kmの長さの極細繊維を、スプレーのように吹き付けながら紡ぎあげ、皮膚のように繊維を貼り付ける技術である。花王は、そのための小型デバイスを開発。極細繊維をベースにした極薄繊維「Fine Fiber」として研究成果を公にした。

その柔らかさ、吸着力により、まるで皮膚のような繊維ができあがる。身体に吹き付けても、身につけていることを忘れてしまうほど。しかも保湿などの性能が極めて高くなる。この特性から考えると、スキンケアはもちろん、医療、そして人工皮膚などさまざまな分野への応用を期待できる。この画期的な技術はどこから生まれたのか。研究・開発にあたる花王加工・プロセス開発研究所 グループリーダーの東城武彦氏、花王スキンケア研究所 グループリーダーの長澤英広氏の2人に話を聞いた。

極細な繊維が肌に密着して剥がれない

―まず、Fine Fiberとはどんなものなのかを教えてください。

東城氏 Fine Fiberは新しい形の“人工皮膚”です。花王が、本質研究として2018年11月の技術発表会で披露した5つの新技術の1つです。

人工皮膚は医療、スキンケアの分野を中心に活発に研究が進んでいます。例えば貼って乾燥させるフィルムなどが一般的ですが、現状では通気性などいくつかの課題があります。しかしFine Fiberは、繭(まゆ)のような極細の繊維を直接肌に吹き付ける技術によって、これまでとはまったく違う性能を手に入れました。

技術的には約0.5ミクロン(0.0005ミリ)の太さで、繊維が1本の糸となって超高速で紡がれて肌の上に積層され、極薄の膜を形成します。吹き付けることで、肌に張り付く際、端は薄く、中央に近づくと厚みが増すようにグラデーションができます。このため、目を凝らして見ても貼ってあるかどうかわかりにくくなります。肌への追従性も非常に高く、剥がすときもまるで日焼け跡の皮がめくれるような感覚です。

Fine Fiberの説明動画(出典:花王)

―なぜこんなに密着するのでしょうか。

長澤氏 繊維が細いことにより、肌との接点の面積が広くなるからです。そのため貼り付く力が段違いに強くなります。また、とても柔らかいので、肌表面の凹凸にもぴったり追従します。

東城氏 鍵を握るのは“毛管力”。これは物体内の狭い隙間が液体を吸い込む力のことですが、Fine Fiberは極細の繊維であるため隙間が非常に小さく、吸い込む力が強い。それが密着性をもたらします。この毛管力の強さゆえ、ワセリンのような半固形の物質でも均一に広げることができます。

花王加工・プロセス開発研究所 グループリーダーの東城武彦氏

例えばこれまで皮膚の上に膜をのせようとすると、大きく作ったシートをカットして貼りつけたり、塗布して固めたりするのが普通でした。その場合、貼りぎわに必ず角ばった端面(エッジ)ができてしまい、これが周囲のモノに引っかかって剥がれやすくなります。しかしFine Fiberは均一に肌に吹き付けるため、まったくエッジができません。密着性と並び、剥がれにくい点も大きな特徴なのです。

長澤氏 貼るのではなく、直接吹き付けるからこそ初めてなし得た成果です。何度も繰り返し重ねることで厚みを増すこともできます。

―素材には何を用いているのですか。

東城氏 人の肌に乗せても問題のないポリマーを使用しています。詳しくは企業秘密なので明かせませんが、ここまで強く密着するかどうかは素材や繊維の構造にもよります。今回我々は、好ましい性能を示すように設計しています。

長澤氏 これが素材です。ちょっと持ってみてください。

―これは軽い……というより持った感じがしません。

Fine Fiberの素材。これだけの量でもほとんど重さを感じない