長澤氏 そうですよね。外見はそれなりにボリュームが有るのに、重さが全く感じられないのです。これを直接肌に吹き付けるわけですから、違和感がないのも当然です。例えば手の甲や指に吹き付けた場合なら、指を曲げても、繊維が肌に貼りついていることを忘れてしまうほどです。

―なるほど。そもそも、どのようにしてこの技術を発見したのですか。

東城氏 私は花王の栃木にある研究所で基盤研究に携わっていて、クイックルワイパーやオムツなどの不織布の開発を手がけてきました。そこで不織布を応用した次世代のテーマを探す中で、繊維を細くすると桁違いの強力な特性を生むことがわかってきたのです。先ほど話した毛管力や柔らかさ、比表面積の広さなどです。

10年ほど前にこの特性に着目し、さまざまな研究を重ねてきました。研究所にはこのような紡糸のための大型装置があるのですが、あるとき作成した膜を肌の上に乗せてみたら、しっかりと馴染んで、まるで一枚の薄い皮膚のようであることに気づきました。「これは面白いな」と。

長澤氏 そこから私の所属する商品開発に声がかかったのが数年前。社内の技術とはいえ普段は接点がないので、この技術を聞いたときは驚きました。

東城氏 花王の研究所には現場からボトムアップで提案できる仕組みがあるのです。Fine Fiberのテーマは、まさのその好例です。

ビューティ領域のイノベーションを目指す

―繊維を吹き付ける技術はエレクトロスピニング(ES)法を応用したものだそうですね。これはどんな技術なのですか。

東城氏 ES法自体は歴史が古く、特許が出されてから既に80年以上が経過しています。プラスに帯電したポリマー溶液をマイナスに帯電した対象物の表面に向けて噴射する技術で、ナノファイバーの発展とともに近年改めて注目されています。

一方、極細の繊維を吹き付ける技術が確立しても、これまでなかなか実用化されてこなかったのは、生産能力などの技術的な面、そして“何に使うのか”といった課題が多かったからとも言えます。今回、我々は噴射する小型デバイスを同時開発することで、当社の主力事業である化粧品やスキンケアへの活用の道が見えてきました。

長澤氏 デバイスのイノベーションが重要になってきます。今はプロトタイプとはいえ、工業用装置から持ち運べる大きさまで小型化することができた。ここまでくれば家庭で使える可能性も想定できるようになりました。これは画期的なことだと思います。

花王スキンケア研究所 グループリーダーの長澤英広氏
花王スキンケア研究所 グループリーダーの長澤英広氏

―いまのところ、どんな活用を想定していますか。

東城氏 まずは、化粧品としての応用を検討しています。Fine Fiberと化粧品製剤を組み合わせると、強い毛管力によって保持力や均一化がぐんと上昇するので、スキンケアとしての応用も考えられるでしょう。Fine Fiberは90%ほどが隙間のため、通気性や透湿性に優れていることもメリットです。

Fine Fiberにモデル製剤が広がる様子。水色に着色してあるのが製剤部分
Fine Fiberにモデル製剤が広がる様子。水色に着色してあるのが製剤部分

また、いろんな製剤との組み合わせにより、Fine Fiberを乗せた状態だと肌の状態が良好になってくることが次第にわかってきました。メカニズムに関しては研究中ですが、いずれさらなる効果が判明すると思います。

長澤氏 現在、いろんな試験で数値を計測してデータを蓄積しています。デバイスも含めビジネスモデルは検討中ですが、これまでとは違ったアプローチを提供できるはずです。

―人工皮膚は医療用途が先行していますが、医療の可能性は。

長澤氏 今は具体的にはありません。しかしポテンシャルは大きいので、「こんなことはどうか」「あんなことをしてみたい」といったアイデアは数多く寄せられています。発表会後は社外からの期待値も高まっており、いろいろな技術との掛け合わせで医療、工業、健康分野などでも発展させていきたいですね。

東城氏 目標は「皮膚を超える皮膚」。どんな部位にもフィットして、激しく動いても追従することができれば、この極細繊維の皮膜がスキンケアから治療にまで使えるのではないかと考えています。

長澤氏 オイルなどを“塗る”スキンケアは、それこそ古代エジプトの時代から変わらないものです。しかし、Fine Fiberを他の分野の技術と融合させれば「塗る」ことから一歩進んだ化粧品の時代がやってくるかもしれない。将来的にはそんなことも実現可能になると面白いなと思っています。