第2幕はフリーミアムモデル、AIが低コストを実現する

オンラインで手軽になったとはいえ、現状のサービスでは、スマホの先にいる相談相手は生身の人間である。当然、それなりのコストがかかる。2017年4月下旬におけるダイエット家庭教師のプランは、30日間1日1回指導の「Trialプラン」が2万9800円、最上位となる60日間1日3回の指導の「Premiumプラン」は8万3000円と、決して安くない。健康寿命延伸のためには大きなハードルといえる。

そこで事業者が着手し始めているのがAIの活用である。例えばFiNCは2017年3月、無料アプリ「FiNC」を公開。“パーソナルコーチAI”として、無料のサービスを提供し始めた。同社がダイエット家庭教師をはじめとするサービスで培ったノウハウを学んだAIが、利用者ごとの健康指導をする。

無料アプリFiNCの概要(出所:FiNCのプレスリリース)

アプリをインストールしてサービスに利用者登録すると、即座にチャット形式で質問を投げかけられる。ここに使われているのはチャットボットと呼ばれる、対話型のAIだ。このAIとの会話に回答していくと、自動的に健康に関するパーソナルデータが入力され、個々人の適性に合った運動や食事改善メニューが提示される。

使い込むに従って自分に関するプロファイリング、趣味嗜好に関する情報が増えていくため、提案の精度も高まっていく。質問に回答した結果に合わせてユーザーが興味をひくコンテンツを定期的に配信し、レコメンドを繰り返す。こうした細かいパーソナライズでも、AIがパターンを作成していく仕組みだ。

FiNCの利用例。フレンドリーな言葉でAIが次々に質問をしてくる。答えは用意された項目から選択する
FiNC 取締役CTOの南野充則氏

AI研究に力を入れ始めたのは2年ほど前。研究・開発を統率する取締役CTOの南野充則氏は「これまでトレーナーや栄養士が手がけてきた専門家の指導をアプリに落とし込み、いかに自動化するか。そこが差別化のポイントになる」と話す。

FiNCのAIはチャットボットと画像解析を柱とする。解析のベースとなる画像データは、これまでユーザーが各サービスに提供してきた約86万件に及ぶ食事の写真だ。これを基に、東大の松尾研究室の協力を仰ぎながら自社開発を進める。

南野氏がAIに注力する背景には、一人でも多くの行動変容を促し、健康寿命を延ばしたいとの思いがある。「健康に興味があってお金を払う人しか健康になれないのではなく、ハードルを下げて徐々に健康への関心を高めていきたい。健康に興味がない人こそターゲット」と話す。間口を広げるためにはコストの抑制が必要であり、コストの抑制にはAIによる自動化・最適化が欠かせない。

スポーツジム、健康食品、人を介したコーチング。これまでのヘルスケアビジネスはほとんどが入口の部分でマネタイズしてきたが、今回のアプリでは無料である程度までAIによる指導で健康になれる。そこから先、さらなる健康を目指す人たちはオプションメニューを別途購入する。このヘルスケアのフリーミアムモデルを南野氏は「ゲームチェンジ」と評した。

現状のAIは有能なアシスタントにすぎないというが、5年後、10年後のAI像に関しては「人が手がける部分はおおよそカバーできるのでは」と南野氏は推測する。しかし、人が対応する温かみは決してなくならないとも言う。事実、AI化の一方でFiNCではパーソナルコーチの拡充を図り、自社サービスのロイヤリティにつなげていく。

南野氏は、「医療費の膨張が深刻化し、今まで以上に病気の予防、健康への気づかいが求められる社会になる。我々はAIを活用した予防医療のプラットフォームを作っていきたい」という。もちろん今後は、健康分野でビジネスを展開する他の事業者も、AI活用に取り組んでいくはず。食事、運動、健康といった、我々にとって最も根源的な部分をAIが支える――。そう遠くない未来ではなかろうか。