非侵襲型のアプローチも進展

BCIは、脳波読み取りデバイスの実現方法の違いにより、2タイプに大別される。一つは、外科手術で頭蓋骨内にアプローチし、脳そのものに電極(脳波読み取りデバイス)を刺す侵襲型。もう一つは、ヘッドセットタイプのデバイスで頭を覆うことで脳波を読み取る非侵襲型である。ここまで紹介してきた例は侵襲型の代表例であり、少なからず体に負担を与えるものの、脳波検知の精度は高い。

一方の非侵襲型は外科的な負担はないが、代わりに精度が低いという課題がある。ただスイスの脳科学研究機関Wyss Centerでは、非侵襲型のヘッドセットデバイスで画期的な実験に成功した。

実験は4人のALS患者、もっと具体的に言うと、意識はあるが目を動かすこともできない「閉じ込め症候群(completely locked-in)」患者を対象に実施した(写真4)。個人にしかわからない固有の質問(例「あなたの旦那さんの名前は●●さんですか?」)、そして「あなたは幸せですか?」との問いかけに対し、脳波を送ってイエス、ノーに答えてもらったところ、10回中7回は正しい返答を得ることができたという。

(写真4)非侵襲型デバイスにより、閉じ込め症候群の患者が意志を伝達した(Wyss Centerの公開動画より)

精度を高めるために、脳活動の計測にfNIRS(近赤外脳機能計測法)を利用した。レーザー光を注入し、脳組織内での血流変化を通して脳活動変化を計測する方法で、日本でも島津製作所が研究用装置を出すなど、次世代の脳活動の計測法として注目されている。今回の実験結果は、これまでコミュニケーションが不可能と思われていた閉じ込め症候群患者にとっての大きな一歩となった。

AIほど悲観的ではない、日本のBCIの現状

日本の現状はどうか。現役の救急医でありながら、最新の医療技術に精通する情報学研究者の沖山翔氏は次のように語る(写真5)。

「BCIの分野では各国に致命的と言えるほどの技術の差はない。なぜなら実用化には医学ではなく、工学のブレイクスルーが必要だからだ。脳波の空間的・時間的な測定精度という工学上の大きな壁が20年前から立ちはだかっており、今でも世界中がその壁の手前にいる」(沖山氏)。

(写真5)沖山 翔氏。医療技術に詳しい情報学研究者。フリーの救急医として、全国を飛び回る。http://okiyamasho.com/。(撮影:小口正貴)

計測精度の観点からすれば、読み取り手段として電極を刺す侵襲型が理想形だ。ただ、人体への影響を含め、意思伝達が難しい患者に外科処置を行うことが倫理的に許されるのかとの課題がある。加えて埋め込むことによりソフトウエアのアップデート対処を考慮しなくてはならないため、「そのアップデートを押しつけるのか」(沖山氏)といった議論もある。

少なくとも日本では米国式のハードコアな侵襲型は主流ではなく、非侵襲型の研究が進められている。AMED(日本医療研究開発機構)が調査した「平成27年度 BMI分野における技術動向調査分析」によると、日本の機関によるBMI関連の特許出願傾向は「測定精度向上」が最多。「非侵襲型で精度の高いデバイスを開発するという領域は、昔からエンジニアリングが得意な日本人に向いているのではないか」と沖山氏は指摘する。

研究機関として有名なのは、大阪大学、国際電機通信基礎技術研究所(ATR)、産業技術総合研究所(産総研)、慶應義塾大学、金沢工業大学といったところ。このうち、大阪大学 産業科学研究所 関谷研究室(関谷毅教授)が開発した「パッチ式脳波センサー」は、画期的なデバイスとの1つと言えるだろう。

大阪大学はこの開発を機に、2016年に大学発ベンチャーとしてPGVを立ち上げた。額に貼るスタイルで、手のひらサイズ、わずか24グラムという小型・軽量を売り文句にしている(写真6)。精度の高さもポイントだ。公開済みデータを参照すると医療用脳波センサーと同等の性能を実現している。さらに、医療用に特化せず、手軽さを武器に健常者の思考を読み取るニューロマーケティングへの応用も見込む。

(写真6)読み取り精度の高さをアピールするパッチ式脳波センサー(PGVのホームページより)

(写真7)パッチ式脳波センサーからの脳波にあわせてロボットを遠隔操作。動きのキレ味は高い(PGVの公開動画より)