糊に含まれるPVAで負荷のないフレキシブルデバイスを

2017年8月には、フレキシブルデバイスを人体に貼り付けることで蓄電する生体燃料電池も発表された。米カリフォルニア大学サンディエゴ校によるもので、汗に含まれる乳酸を電流へと変換し、LEDやBluetooth機器への電源供給に成功した。ここでもバオ教授の電子皮膚同様、最新のフレキシブル印刷技術とカーボンナノチューブが採用された。

(写真5)貼り付け型の生体燃料電池(出典:米カリフォルニア大学サンディエゴ校)

4人の被験者にシートを貼付し、サイクルマシンで運動させたところ、青色LEDを約4分間点灯できたという。劣化しない材料、高効率のエネルギー貯蔵法など超えるべき壁は数多いが、研究者たちは実現化に向けて胸を躍らせている。

日本では、東京大学大学院 工学系研究科の染谷隆夫教授が有名だ。染谷氏は米ベル研究所に留学経験を持つが、奇しくも同研究所においてロジャース教授、バオ教授と同僚だった過去を持つ。

2017年7月、染谷教授が慶応大学医学部の天谷雅行教授らとの共同研究として発表したのが、皮膚呼吸が可能な皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーだ。通気性と伸縮性を兼ね備えたもので、極薄・超軽量のため装着感すら感じることがない。皮膚に触れることから生体適合材料にこだわった。20人の被験者に対してかぶれ/アレルギー反応のパッチテストを行ったところ、1週間連続して装着しても炎症反応が認められなかった。

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(写真6)ナノメッシュセンサーの構造(出典:東大・染谷研究室

素材には金箔とPVA(ポリビニルアルコール)を採用。PVAは洗濯糊に含まれる接着性物質で、ごく少量の水で皮膚に貼り付けることができる。このナノメッシュセンサーは皮膚の動きに応じて伸縮しても導電性が衰えず、指の屈曲を1万回繰り返しても高い導電性を保持した。研究チームはこの成果を医療介護の現場や、スポーツ選手のデータ計測などに活用していくつもりだ。染谷氏はこのアプローチを生命調和エレクトロニクスと呼び、人間とエレクトロニクスの自然な融合を目指している。

(写真7)屈曲を繰り返しても高い導電性を保った(出典:東大・染谷研究室)

同様の貼り付け型センサーには、大阪府立大学大学院工学研究科 竹井邦晴助教の研究チームが発表した絆創膏型デバイスもある。このデバイスのポイントは印刷技術によって柔らかいフィルム上に3軸活動量センサーを搭載したことにある。使い捨て/再利用のシートによってセンサーを挟み込み、デバイスの低コスト化に努めた。

皮膚ではなく直接電子回路を貼り付ける事例だが、早稲田大学アクティブ・エイジング研究所の研究グループでは、熱処理を用いずに電子素子を皮膚に貼り付け、通電させる技術を開発した。これは高分子ナノシートの柔軟性、密着性を応用したもので、電子回路の配線を家庭用インクジェットプリンタで設計・印刷できる。このような簡便さもあることから、健康やスポーツ科学への応用はもちろんのこと、皮膚貼り付け型エレクトロニクスの学習用キットとしての展開も見込んでいる。

(写真8)早稲田大学のフレキシブル電子回路(出典:早稲田大学)