今後、世界に類を見ない超高齢化社会に突入する日本にとって、フレキシブルデバイスのPHR(Personal Health Record)への応用は非常に大きな可能性を秘めている。病気予防、健康維持のためには、日常的なバイタルデータの収集が鍵を握る。ハードルの一つは、バイタルデータを取得するためのデバイスを身につける違和感。そこでフレキシブルデバイスが威力を発揮する。フレキシブルデバイスのキーパーソンであり、「フレキシブル医療IT研究会」を立ち上げた東京大学大学院 工学系研究科の染谷隆夫教授に話を聞いた。

<<前編はこちら

(写真1)東京大学大学院 工学系研究科の染谷隆夫教授
(撮影:小口正貴)


――「生体調和エレクトロニクス」に取り組んだきっかけについて教えてください。

この研究を始めたのは2001年頃。ルーツはフレキシブルディスプレイや電子ペーパーなど、紙のような表示媒体ですが、これを他の分野に応用できないかと考えたのが始まりです。トランジスタや回路が曲がるようになれば、ディスプレイ以外にも面白い用途があるだろうと。そこで有機トランジスタと大面積圧力センサー群を組み合わせ、2003年に電子人工皮膚を開発しました。

最初に作ったときはフィルムが曲がるだけでしたから、曲面にうまく貼り付けることはできませんでした。そこですぐ、伸縮性の重要性に気づいた。伸縮性を伴えば、関節などの可動部にも貼り付けることができます。それからセンサーの領域に曲がる要素を融合する取り組みを始めたわけです。

生体調和エレクトロニクスという言葉には、文字通り人間と機械が一体化するようなイメージを思い描いています。大切なのは、伸縮性はもちろん、薄型・軽量で不快感がなく、皮膚呼吸できる通気性のある構造にすることです。これらがきちんとそろえば、生体と調和するエレクトロニクスが実現できます。


――最新の成果として2017年7月、皮膚呼吸が可能な皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーを発表しましたね。慶応大学医学部の天谷雅行教授らとの共同研究で、医療用途をにらんだものですね。

こうしたデバイスは、それが何に役立つか、その科学的な根拠を明らかにして、将来の可能性に説得力を持たせることが重要です。だからこそ、日本の皮膚科を代表する天谷先生に協力してもらいました。使う場所がどこであっても、手続きを取ってきちんと医療関係者に信頼してもらえるものを作る必要がありますから。

(写真2)2017年7月に開発した皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサー
(出典:東京大学)

実験では、センサーに金箔と人体に優しいPVA(ポリビニルアルコール)を採用することで、皮膚の炎症を著しく減らせるという結果が得られました。

ただ大学と医療機関が共同研究する場合、手作業で工芸品のようにデバイスを試作して終了するパターンがほとんどです。こうした新技術の採用に前向きな医師は結構たくさんいますが、それをビジネスに発展させることは稀です。

とはいえ、本来なら、実証が成功したら量産を視野に入れ、価格を下げながら信頼性を担保して生産していかなくてはなりません。そこには企業が入ってこないと完成度が上がらない。そのためにいろいろな企業の人がどうやって作るのかを考えておかないと、打ち上げ花火で終わってしまいます。


――そこで産学連携の勉強会である「フレキシブル医療IT研究会」を立ち上げたわけですね。

低侵襲のフレキシブルデバイスは、これからの産業の中でも明らかに重要な領域になります。そう考えて2013年に発足しました。既に4年が経ち、法人会員数も105社まで増えました。ファンドや官庁関係、地方自治体などは無料で招待し、今では200人を超える大きな研究会へと成長しています。

もともとフレキシブル医療IT研究会は座学スタイルでしたが、2年ほど経過してから調査ワーキングを実施しました。参加法人の方たちが3つの班に分かれて、企業や研究機関、あるいは特養老人ホームなどを訪ねて、フレキシブルデバイスがどのような役に立つかをヒアリングしました。30カ所ほど回り、2017年2月に報告書にまとめ、関係者や関係官庁に配布しました。

座って最新動向を学ぶだけでは本気度が増しません。自分たちで動いていかないと。調査ワーキングなどの取り組みを通じて、フレキシブル医療IT研究会メンバーの情熱は年々高まってきました。今後はメンバーに評価者キットを配布して、自分たちで触って納得しながら、次のフェーズに向かってもらおうと考えています。