“つけると幸せになるセンサー”を目指して


――フレキシブルデバイスの適用領域について教えてください。

最も期待が大きいのは医療分野、健康管理分野ですね。

超高齢化社会の中で、いかに健康寿命を延伸するか、いかに膨張する医療費を抑制するか。日本は大きな問題に直面しています。最も有効な対策は、病気の予兆発見や日常的な健康増進です。“身体の見える化”はそのための第一歩です。日常的にバイタルデータを収集して健康状態を管理できれば、ちょっと体調が悪いぐらいで病院に行くようなことはなくなるはずです。データが異常を示したら病院に行って検査すればいい。

しかし、腕時計型デバイスだけでは計測できるバイタルデータに限界があります。脳波を計測するには脳の近く、心拍を計測するには心臓の近くにセンサーがあったほうがいい。つまり、身体のさまざまな部分に必要なセンサーをアドホックで装着することが重要になってくるわけです。

今はサーバーの処理能力が極めて高くなっています。病気の予兆発見などのためにはデータがどんどん欲しい状況です。ところが、肝心のバイタルデータに関しては、必ずしも効率的に集められていません。常にバイタルデータをモニタリングするには、装着に負荷がなく気軽に計測できるセンサーが必要です。将来的には、ほとんどすべての人がフレキシブルデバイスを利用する可能性があります。それを目標としてデバイスの完成度を上げていきたいと思っています。

それから、病院での利用シーンを考えた場合、皮膚貼り付け型のセンサーは感染対策の面でもディスポーザブルでなくてはなりません。ただ、コストが高い半導体やバッテリーのモジュールを次から次へと使い捨てにはできません。

そこで医療器具などでは、捨てる部分と繰り返して利用する部分とに機能分散が進みます。捨てる部分には環境に優しく電気的に必要な機能だけを載せ、半導体やバッテリーといったモジュールは使い回せる部分に搭載するわけです。

こうした医療分野以外では、スポーツでの生体情報計測に活かせるのではないかとの期待があります。


――スポーツと言えば、染谷研究室からスピンオフしたベンチャーのXenoma(ゼノマ)が、伸縮性エレクトロニクスを利用した「e-skin」を開発しましたね。

e-skinは着衣で“スマートアパレル”と呼んでいますが、ARやVRとの連動に始まり、その先にはジョギングやヨガなどで運動フォームのモニタリングができないかと考えています。

(写真3)ゼノマによるe-skin。センサーを内包した着衣で、コンセプト動画では着ているだけでジョギングフォームを判断するシーンをフィーチャーした
(出典:ゼノマ)

実際に製品化してみると分かってくるんですが、伸縮性エレクトロニクスは材料から出口に至るまで何階層もあって、すべてを新しい技術で組み上げることは現実的ではありません。既にある技術をベースに、一部を柔らかくしていくという考え方が大切です。こうした工夫を積み重ねて、オセロを1枚ずつひっくり返すようにして普及を図っていくことになると思っています。


――改めてフレキシブルデバイスの未来について教えてください。

ある意味、将来的にはその言葉さえなくなってしまうぐらい、世の中にあるさまざまなものが伸縮し、自由に曲がるようになるのではないかと思っています。一度、この未来をイラストに描こうとアイデアを出したことがありますが、フレキシブルデバイスを絵にすることができませんでした。皮膚に自然な状態で貼り付いているものが理想であって、そのときにはフレキシブルデバイスは、ほとんど目には見えないものになっているはずだからです。

人びとがごく普通に身につけ、その存在すらも忘れてしまう――それこそ、フレキシブルデバイスの未来です。コストが下がり、人体への負荷だけでなく経済的な負担も緩和されれば、当たり前に装着してくれるようになるでしょう。技術面の改良とともに、社会的な課題解決のビジョンを明示できれば、“身に着けると幸せになるセンサー”として普及させることも夢ではありません。