「高齢化社会に向き合い、歩くことを習慣化していけるよう、“自分の足で歩く”ことを支援する機器を作りたかった」――こうした確たるビジョンに基づいて、大阪の介護ロボットベンチャー、RT.ワークスは電動歩行器「ロボットアシストウォーカーRT.1」を開発した。発売から1年。導入状況と市場の評価、そして未来への思いを聞いた。

Q:RT.1には、モーションや人感などの各種センサー類、アシストブレーキ機能、GPS(全地球測位システム)など、様々な仕組みが搭載されています。歩行器としては斬新ですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

RT.ワークス代表取締役 藤井仁氏

RT.ワークスを立ち上げる前、船井電機で働いていたころ、高齢化社会に関わるセクションに所属していました。センサー、モーター、機械制御など、これまで培ってきたロボット技術を用いて高齢化社会に向けた商品を生み出せないものかと考え、そこで電動歩行器のコンセプトが生まれました。

コンセプトの鍵は「健康寿命の延伸」です。今は元気な高齢者の方々も、いつか介護が必要になったり、寝たきりになったりするかもしれません。それを予防する「予防介護」といった考え方で改めて調査してみると、これから足腰が不自由になりそうな高齢者予備軍が、想像以上に多くいることがわかりました。この市場に向けて、実際のモノを作ろうと、RT.ワークスを立ち上げたわけです。

Q:RT.1は、3Gデータ回線の通信機能を有していて、利用者の様子を把握できる点が大きな特徴ですね。

そもそも最初に、インターネットに注目したのです(写真1)。高齢者はスマートフォン(スマホ)を持っていても使えないことが多いですよね。でも、別につながる技術が高齢者に見える必要はありません。隠れていたとしても、インターネットの技術やサービスを使って彼らが恩恵を享受できる部分が必ずあるはずです。RT.1は高齢者から見たらただの電動歩行器でしかありませんが、通信モジュールを搭載しているため常に回線でつながっていて、センサーから採取したデータが弊社のサーバーに蓄積されています。

(写真1)RT.1の機能イメージ(2015年7月の発表会より)

例えば対象となる高齢者が転倒した場合、転倒したことを知らせるメールがスマホに送られます。送り先は本人ではなく、離れた場所にいる家族や施設の担当者です。蓄積したデータからは歩行距離、歩数、歩幅などが全てわかる。今日はどんな1日だったか、先月と比較してどうだったか、1年前と比べてどうだったか――これらのデータから、診断とまではいかなくとも、行動の変化を知ることができるようになります。

Q:IoT(Internet of Things)の波にうまくはまった気がします。実感はありますか。

はい、我々の想定以上にIoT関連企業からの反響は大きなものでした。例えば富士通の大規模な自社イベントに招待されてRT.1を展示したり、製品の概要を講演したり。大企業でもIoTを打ち出してはいるものの、どこも製品まで落とし込めていないのが実情です。そこでRT.1を画期的な製品と捉えていただいたのでしょう。そのほかにも、IoTという部分で可能性を見出してくれたところからよく声をかけてもらいました。

IoTでつながっていることで、日々のデータ蓄積による健康管理、通知による見守りのほか、遠隔地から機器の状態を把握できるというメリットがあります。アラートが出たりすると高齢者がコールセンターに電話をかけてくるわけですが、要領を得ない場合も多い。いざ現場まで行ってみたら主電源が入っていないだけ、などということもあり得ます。

その点、RT.1ならサーバー経由で機器の状態がわかるため、「バッテリーが切れてエラーが出ています」と具体的なアドバイスを与えられます。今までのような無駄な出張費を削減できます。いつ交換部品が発生しそうかといった傾向までおおよそ把握できますし、自ずとサービス品質が高まります。これらもIoTによる恩恵です。

Q:RT.1は発売から約1年が経ちました。実際のユーザー事例をいくつか教えてもらえますか。

まず三重県四日市市の4世代家族で、お祖母ちゃんが元気になったという例があります。その方は心臓を悪くして入退院を繰り返しているうちに精神的にふさぎ込んでしまい、だんだん出歩かなくなってしまったそうです。お孫さんが見かねてRT.1をプレゼントしたところ、非常に積極的になって1人でスーパーに買い物に行けるまでになった。それまでは、お祖母ちゃんの息子さんなりお嫁さんなりが一緒に出かけて世話をしていたのですが、今はお孫さん夫婦がスマホで位置情報を確認できるので、安心感がある。息子さんたちが自分の時間を持てるようになったのも大きいとのことです。それと、お祖母ちゃんが歩く地域はわりと坂道が多いため、RT.1の使い方としてもベストな事例の一つと言えます。

2つめは、昨年、徳島県の介護施設で実証実験したケースで、デイサービスの散歩メニューでRT.1を使用してもらいました。RT.1には音声案内があり、一定距離を歩くと「そろそろ休憩されてはどうですか」と話しかけてきます。そうしたら、あるお祖母ちゃんが「え、私のことをわかってるんだ、このロボット」と感動してくれて。ほかにもインプットすれば誕生日を言ってくれたりするので、ぐっと親近感を覚えたそうです。彼女は“ロボットさん”と呼んでいます。

そのお祖母ちゃんも家にいるときには引きこもりがちで、RT.1を導入する前は何とかデイサービスにだけは通ってくるという状況でした。それがRT.1を使い始めてからは自分で歩くようになり、歩行スピードも増したそうです。さらに、RT.1を置いていないにもかかわらず、自宅にいるときも自ら歩くようになって、今ではJRの1駅分ほどを歩いているとか。もともと心臓を悪くされて、人工弁を入れている方がですよ。医師にも運動をセーブするよう言われていたほどなのに、RT.1と出会ったおかげで日頃の生活もだいぶ変わったとのことでした。

「自分の足で歩くと健康にいいですよ」というロジックは、もちろん皆さん理解しています。しかし、それだけで購入するわけではない。むしろ、動機が大事なのかなと思います。ほかのユーザーから聞いたエピソードでは、「自分でコンビニにヨーグルトを買いに行きたい」ことが強いモチベーションになっている例もありました。家族に買い物を頼めば済むことですが、実際にコンビニに行ったら久しぶりに友だちとあって30分も立ち話をしたそうです。歩くことが目的ではなく、かけがえのない体験を手助けするためのツールとしてRT.1を使ってくれている。

これらの事例は結果的に健康寿命を延ばすことにつながっていますし、周囲の家族も喜んでいます。弊社にとっても非常にありがたい、理想的な使い方と言えますね。