2020年までにAIクリニック100カ所

そこでNAMは、これらの課題に対し、ソリューションとなるサービスを提供する。提供しようとしているサービスは4つ。診断、検査、治療、予後のそれぞれのフェーズに合わせた、(1)診断:AIを利用した問診ボットの「ドクターQ」、(2)検査:機械学習を活用した疾患予測モデル、(3)治療:AIが推薦する健康食品サービス、(4)予後:深層学習(ディープラーニング)とブロックチェーンを使った次世代カルテシステムだ。

ドクターQはLINEに実装するチャットボット機能で、診察の数日後に患者の経過をAIボットが自動で尋ね、その結果を医師が把握できるようにする仕組みを持つ。これにより、経過が思わしくない患者に再診を促すことができるし、前回の診察から後の経過を把握できるようになる。「重要なのは病気を当てることではなく、その症状に対して今すぐに病院に行くべきかどうか、薬を飲んで治るかどうかといった、患者に寄り添った答えを出すこと」(中野氏)である。

疾患予測モデルの「NAMインスペクションシステム」は、ドクターQでの問診に加えて、患者が各自で状態を判断できるよう、検査の仕組みを提供するもの。慢性疾患を中心とする疾病の状態を患者が自力で把握するための検査キットで、チャットボット以上に医師に相談すべきかどうかを判断しやすくなる。(3)の健康食品は、例えばゲノム検査と組み合わせることを考えている。健康を維持するために適切な食材や加工法を人工知能が選び出す仕組みだ。

(4)の次世代カルテシステムでは、ドクターQなどで問診した結果を、深層学習ベースのAIが自動的にカルテに編集する。個人のプライバシー保護のために、ブロックチェーンを採用する。これを無料で提供し、クリニック・レベルに電子カルテを浸透させていく考えである。2020年に電子カルテの普及率80%を目標とする。

NAMのサービス概要(同社ホワイトペーパーより抜粋)

これらソリューションとともに、患者の望む最新医療を提供する“場”として「NAM AIクリニック」を東京・銀座に開設。現在のところ、2018年4月のオープンを予定している。「NAM AIクリニックを考えた背景の1つとして、大学病院ではAI技術を使って医療を行うことに対して倫理審査が下りない課題があります。このクリニックでは自由診療の中で、AIをフル活用した技術を投入していくつもりです。血液検査やゲノム検査を行い、世界中の論文を読み込んだAIが患者の疾患リスクを割り出すイメージです。それから海外の抗がん剤の選択などにもAIを活用し、個別化医療をサポートしたいと考えています」(中野社長)。

NAM AIクリニックを中国人富裕層の医療ツーリズム拠点とし、実業で稼ぐプランも想定する。中野氏は医療AIのノウハウをフランチャイズ化し、2020年には全国に100カ所のAIクリニックを展開したいとする。

医療の内側からでなくても医療改革はできる

中野氏は医学部を卒業しながら医師免許を取らず、エンジニアとして歩む道を選んだ。なぜ医師としてではなく、AIやブロックチェーンを武器に医療改革にこだわるのか。そこには、医学部で学んだからこそ見えてきた医療の現実が大きく関係している。その考えを、中野氏はこう話す。

「大学2年ぐらいから、AIの医療応用を考えていました。実習で毎日病院に通っていると、非効率的な部分が数多く見えてきたためです。現代の医師はルーティンワークや雑用が多すぎます。おそらく、働いている時間の8割は書類作業になってしまっている。それで疲弊してしまうため、内側から現状の医療を劇的に良くすることができないのです。だから学生時代ずっと、機械学習で改善できる医療現場の業務をリストアップしてきました。今までで100項目ほどになっています」

医療におけるAIの可能性を力説する中野氏

「もう一つ、今の専門医制度に疑問を感じています。専門医の筆記試験は大学入試と同じで、多くの医師が詰め込みで覚えます。当然、試験が終わった瞬間から、どんどん忘れていきます。逆に、最先端技術などの知識は必ずしも身に付かない。いずれにせよ今の医療のガイドラインは細かすぎて、本来医師が覚えるべきものではないと感じています。それよりも、AIが常に最新情報のガイドラインを医師に提示し、曖昧な知識を補助するやり方のほうが、効率的で、医療の品質が高まるはずです」

AIが医療で日常的に利用されるようになれば、極端な話、医療の質を担保するのが医師ではなく、AIや、それを使いこなすエンジニアになっていくのかもしれない。