潜在看護師の力を市場に解き放て

 医療業界の大きな課題の一つには、看護師の不足もある。その活躍の場は以前に比べて、病院やクリニックから大きく広がった。想定されるだけでも介護付きの高齢者施設、デイサービス、リハビリ施設、保育園などがある。このため今後は、医師以上に人材が不足すると見られている。

看護師不足の問題を一層深刻なものにするのが、在宅医療・看護ニーズの高まりである。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者を迎える2025年をにらみ、政府は可能な限り自宅で余生を過ごす地域包括ケアシステムを推進。ますます訪問看護の重要性が高まってきた。

看護師の数は圧倒的に足りない。現状では、およそ155万人の看護師(准看護師を含む)が必要だといわれ、既に不足している状態にある。一方で、離職率が約11%で横ばいのまま推移しているため、毎年一定数の新人が入ってきても総数が変わらない。厚生労働省の試算では、2025年で最大13万人の看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)の人材不足に陥るとのデータもある。

結婚や出産、家庭の事情などで退職し、そのまま復帰しない“潜在看護師”は約70万人いるとされている。医療や看護の現場は非常にハードであるため、子育てをしながら復帰するのは難しい。ニーズが増えるばかりなのに需給バランスが取れない――この溝を埋めるべく誕生したのが「なでしこナース」である。

トップページに掲げられたメッセージ(なでしこナースの紹介ページより)
トップページに掲げられたメッセージ(なでしこナースの紹介ページより)

平たく言えば、“看護師版のUber”だ。決まった曜日だけ、1日2時間・週3日といった単発・スポット・非常勤の看護師業務に特化してマッチングを図る。通常、看護師は人材紹介会社を通じて仕事を紹介されることが多いが、なでしこナースの場合はWeb上で自ら登録し、エリアや時給などの条件を見て希望求人を検索。希望勤務先とメールやチャットでやり取りしながら契約を結ぶことができる。高度なスキルを要求されるだけに、なでしこナースでは64項目ものスキルを設定して看護師に回答させ、スキルの質を透明化している。

運営する4U Lifecareは、米セールスフォース・ドットコムの日本法人社長を務めた宇陀栄次氏と、デジタルヘルスに造詣の深い医療法人社団鉄祐会 理事長の武藤真祐氏が設立した。現在はソニー、IBM、GEヘルスケアを渡り歩いた伊藤久美氏が社長を務めるなど、ITアプローチに強みを持つ。医療業界とは違った観点から入っているため、新風を巻き起こす可能性もある。

同じく深刻な人手不足を抱える介護業界でも、人材シェアリングが誕生した。美容や介護関連の求人・転職サービスを運営するリジョブでは、「介護シェアリング」を提唱。これまで介護職員の働き方は、早番・日勤・遅番と“時間”で分けられ、1人が複数業務をこなすことが普通だったが、介護シェアリングではまったく逆方向に発想を転換した。

介護シェアリングのコンセプト(リジョブの紹介ページより)
介護シェアリングのコンセプト(リジョブの紹介ページより)

例えば朝なら朝食介助・配膳・下膳・口腔ケア、午前中なら入浴介助、夕方ならおやつの配膳・下膳といったようにタスクで切り分けたのだ。それを複数人数でこなすことにし、短時間でシンプルに勤務できるようにした。

考え方はワークシェアリングだが、その効果は大きい。時間が短いためスポットで介護業務に入りやすくなり、結果的に介護業界の人材増加につながる。また、タスクが決まっていれば教育の時間が短くて済むなど、事業者側のメリットもある。既に一部の介護施設がこの手法を導入し、介護現場の新たな働き方として注目されつつある。