VRなら病室でコンサートの擬似体験ができる

今のところ、N-NOSEの実用化は2020年1月を目標としている。2018年7月には日立製作所との協業により、「HIROTSUバイオ・日立共同実験室」を開設。大規模な臨床検体解析に向け「高スループット自動撮像装置」を新たに開発し、1日当たり100件以上の検査を可能とした。

AVEX&HIROTSU BIO EMPOWER LLC.としては当面、がん検診率の向上とN-NOSE検査普及のためのプロモーション活動を軸とする。しかし保屋松氏には、別の観点での長期的ビジョンがある。それは「研究者のマネージメント」だ。

「これは広津先生と出会ったことで芽生えた考え。背景にあるのは、日本の大学の、研究者に対する待遇があまり良くないことだ。広津先生自身、大学の中にいたら実用化があと10年は遅れていただろうと言っていた」(保屋松氏)。最近は、よりよい研究環境や待遇を求めて、一般企業に就職したり、海外の大学に留学したりする研究者が多いという。

「これは日本にとって損失といっていい。素晴らしい研究を手がけている人たちが日の目を見て“研究者のスタープレーヤー”になれば、後続の有能な研究者たちにとって新たな選択肢を与えることにつながる」

20年間、アーティストマネージメントに従事してきた保屋松氏にとってみれば、広津先生はアーティストと似た存在であり、N-NOSEは彼が生み出した作品にほかならない。そこで、これまで培ってきたノウハウを活かし、研究者を発掘してマネージメントしたいと考えた。いずれは、資金や人脈などを含めたバックアップも手がけていきたいという。

エンパワー・チルドレンの活動内容(出所:エンパワー・チルドレン)
エンパワー・チルドレンの活動内容(出所:エンパワー・チルドレン)

AVEX&HIROTSU BIO EMPOWER LLC.と同時に設立したエンパワー・チルドレンは、保屋松氏の “思い”をより凝縮した一般社団法人。保屋松氏は同社を通じて、小児がんに苦しむ子どもたちやその家族を有形・無形で支援していく。

「小児がんの子どもたちは長期的な入院・通院で肉体的・精神的な負担を強いられる。そればかりか、治療に関する家族の経済的な負担も相当なもの。まずは年1回のチャリティコンサートを開催して、そこで得た収益に関しては運営費用を除いて全額基金に還元する。さらにN-NOSEが実用化されれば、収益の一部を還元する仕組みも検討中だ」

経済的な支援だけではない。先ほどのメッセージの例のように、子どもたちを元気づける活動も積極的に展開していく。アーティストが各病院を訪問してイベントを開いたり、バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)といったテクノロジーを活用してコンサートの様子を見せるようなこともできるだろう。「抗がん剤の治療が始まると子どもたちは1~2カ月ほどベッドから動けない状態が続く。あたかも会場に行ったかのような体験を提供することは大いに励みになる。私自身が体験したからこそ、こうしたことが救いになり、前向きに生きる糧になることは十分に理解している」(保屋松氏)