まちづくりでも自治体とサッカーチームが協働

上記の例のように民間企業ではなく、自治体が独自にクラブチームと連携するケースもある。健康寿命延伸都市をうたう長野県松本市では、2014年に松本山雅FCと協定を締結。3年間にわたり選手らが市内35地区の福祉ひろばを巡回し、運動指導を中心とする講座を行った。

それ以降の活動も活発だ。長野県選抜の選手を中心としたクラブとして誕生した松本山雅FCはもともと地域との関わりが深く、そのビジョンに「地域に密着した総合型スポーツクラブ」を掲げている。2017年にはスタジアム以外でもクラブに触れてもらう機会を増やそうと、ヨガ、子どもや大人向けの運動プログラム、フラダンスなど、身近に参加できる各種教室をスタートさせ、市民健康づくりの活性化に一役買っている。

徳島ヴォルティス(徳島県)では、SIB(ソーシャルインパクトボンド)を健康増進プログラムに適用した。SIBとは民間資金を活用して社会課題解決型の事業を実施し、成果報酬の形で地方公共団体が対価を支払う仕組みのことで、徐々に日本でも採用プロジェクトが出てきている。今回の事例は、Jリーグクラブで初となるヘルスケア分野でのSIBだという。

2018年11月に徳島県美馬市、大塚製薬と連携協定を交わし、3者の協働により慢性的な肩痛・腰痛を抱えている美馬市民に対して運動習慣の定着を図る。徳島ヴォルティスはコーチを派遣して運動プログラムを実践。栄養補給には大塚製薬の健康維持食品「ボディメンテゼリー」を提供し、ICTを活用して活動データを可視化しながら5年間にわたって協力していく。プロクラブチームのコーチによる指導がどれだけ一般市民に効果があるのかが見ものだ。

より大きな「サッカーを通じたまちづくり」を目指すのが、東大阪市(大阪府)とJFL所属のクラブチーム、FC大阪だ。同クラブはガンバ大阪、セレッソ大阪に続く3つめのJリーグ加入を目指し、2018年11月に東大阪市からホームタウンの承認を受けた。

2019年1月、両者は「スポーツを通じたまちづくり」に関する連携協定を締結。東大阪市民の健康的な生活の実現を地域の活性化に資することを目的とし、「市民のスポーツに関する興味・関心の向上」「スポーツを通じた地域交流とまちのにぎわいづくり」「市政及び市の魅力並びにスポーツにかかる情報発信」「その他スポーツの振興及び市民の健康増進」を4本柱に活動を進めていく。

スポーツ産業を軸に新規ビジネスの輪を広げる

こうした動きは何もサッカークラブだけにとどまらない。よく知られている例はプロ野球の横浜DeNAベイスターズだろう。同球団ではホームグラウンドの横浜スタジアムを中心とした「スポーツタウン構想」を進めており、周辺の商業施設、スポーツビジネスのインキュベーション、次世代のスポーツ人材育成など包括的なまちづくりに挑戦しようとしている。その中核施設として、2017年3月には旧関東財務局横浜財務事務所を活用した「THE BAYS(ザ・ベイス)」をオープンさせた。

米国の野球、または欧州各国のサッカーでは球団やクラブチームがしっかりと地域に根づき、スタジアムが「試合がなくても人びとが集う、まちのランドマーク」になっているのは有名な話だ。このように日本でスポーツを生活圏内の文化として定着させるために、国も力を入れ始めた。それがスポーツ庁による「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)」である。

SOIPは、骨太の方針において成長産業として位置づけられたスポーツ産業を軸に、データ活用によって新規ビジネスを創出していくことを狙いとする。「スポーツの価値高度化」「他産業の価値高度化」「社会課題の解決」を目標として、従来の「する・みる・ささえる」にとどまっていたスポーツの領域を爆発的に拡大させていきたい構えだ。

SOIPが目指すスポーツ市場の拡大イメージ(出典:スポーツ庁)

2018年12月に開催された第1回の推進会議では、埼玉県によるプロスポーツチームとスタートアップ企業による新産業創出の取り組みが報告された。埼玉県に本拠地を置く浦和レッドダイヤモンズ、大宮アルディージャ、埼玉西武ライオンズの協力を仰ぎ、スポーツの魅力・発信力を活用した創業を支援するもの。国と県の折半で約3000万円の予算を捻出し、3年間にわたって人材育成プログラムを行う。

各地に広がりながら活発化し始めた、スポーツを通じた地域活性化。肝心なのは、密接なつながりづくりと地道な継続性。一過性では意味がない。継続していくための運営体制の整備が重要なポイントになりそうだ。