医療・ヘルスケアベンチャーで現役医師の起業が相次ぐ。多くに共通するのは、より患者に近い場所で役立つサービスをテクノロジーによって提供したいとの思いだ。オンライン診療サービス「curon(クロン)」で台頭してきたMICINもそんなプレイヤーの1つ。しかし、オンライン診療にとどまらない明確なビジョンを掲げている。その先にある思いを、CEOの言葉を交えながら探った。

医療×AIの可能性を追究

今から40数年前、米スタンフォード大学でエキスパートシステム「Mycin」が開発された。エキスパートシステムとは人工知能(AI)の研究から生まれたもので、専門家の意思決定能力をシミュレートするように設計されている。これによりMycinはAIを用いた感染症診断支援システムとして脚光を浴びたが、現場に根付くことはなかった。

その理由は、「AIが下した判断が間違っていた場合、誰が責任を取るのか」との問題が大きかったからだ。しかしあれから長い年月を経て、AIを医療やヘルスケアに活用しようとする動きが出てきた。背景には、テクノロジーの進化によって、診断支援や画像認識、データ解析の信頼性が高まってきたこと、医師や医療従事者のテクノロジーに対する受け取り方がポジティブになってきたことが挙げられる。

2015年に創業した医療ベンチャーのMICIN(旧社名:情報医療)は、Mycinへのオマージュから社名をつけた。AIによる医療データソリューション事業、オンライン診療サービス「curon(クロン)」の2つを柱とする。MICIN 代表取締役CEOの原 聖吾氏は「我々のような事業が、これからもっともっと医療やヘルスケア領域で価値が出せる時代になってくる」と話す。

MICIN 代表取締役のCEO 原 聖吾氏(写真:小口正貴)

同社の医療データソリューション事業は実に多彩だ。代表的な事例だけを見ても、脳梗塞につながる因子を特定する研究(東京女子医科大学との共同研究)、産後うつの早期発見と支援策の研究(名古屋大学との共同研究)、大腸がん手術の動画解析(国立がん研究センター東病院との共同研究)と、扱う疾患の種類やアプローチが見事にバラけている。

一見バラバラなこれらの研究をつなぐのがMICINのAIである。脳梗塞の事例では、約1500人の軽症脳梗塞患者の人間ドック結果をAIで分析し、脳梗塞の要因を探るアルゴリズムを開発している。産後うつと大腸がんにも共通してAI解析を用いるが、その取り組みの意義を原氏は次のように説明する。

「我々が注力しているのは疾患の傾向を予測したり、介入したりする部分。例えば産後うつ。妊産婦の死因のトップは自殺とされており、産後うつはそれらと大きな関係がある。もう少し早めに症状を予測できれば、救える余地がじゅうぶんにある。

基本的に妊産婦を見ているのは産科の医師であり、必ずしも精神科の専門ではない。そのため少し様子がおかしいと思ったときに、精神科の診断を促すべきなのかどうかの判断をするのは難しい。判断する基準があれば『現状ではリスクがあるのですぐに精神科を紹介したほうがいい』との材料になる。そこでAIによる解析を進めている。患者の症状に応じてどのように介入していくべきか、そのヒントを与える取り組みでもある」

これらの事例はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)やAMED(日本医療研究開発機構)の事業に採択された公的な意味合いが強いものだが、民間企業との協業にも積極的な姿勢を見せる。東京海上ホールディングス、NTTデータとは共同で「社員の休職リスクを予測する技術」をAIにより開発。健康経営に継続的に取り組むための定量的な指標を創出し、対処すべき健康リスクを把握することに役立てていく。

東京海上ホールディングス、NTTデータと共同で健康経営の実現に向けて取り組む(資料:NTTデータ)