政府がSDGs(持続可能な開発目標)の推進に取り組むなど、日本でも徐々に社会課題解決の思考が広がりを見せている。こうした中、スタートアップにも高い志を持って社会を変えていこうとする若者たちが増えてきた。今回紹介するオトングラスは、その代表格とも言える存在。時代の変わり目に生まれるべくして生まれたソーシャルスタートアップである。

OTON GLASS(オトングラス)という名のメガネ型機器がある。メガネ横のボタンを押すと、メガネを向けた先にある文字をカメラが撮影して画像認識。音声として読み上げてくれる。

OTON GLASSの利用イメージ(出所:オトングラス)
OTON GLASSの利用イメージ(出所:オトングラス)

OTON GLASSは、スタートアップのオトングラスが製造・販売を手がける。創業者の島影圭佑氏が、脳梗塞の後遺症として父親が発症した失読症をサポートするために開発したのがきっかけだ。同社では「視覚障がい者の『読む』力を拡張する眼鏡」を標榜している。

開発を始めた2014年頃は、「Google Glass」を筆頭にスマートグラスの“未来性”が華やかに喧伝されていた時代だ。技術が前面に立ち、何に使うかがおざなりにされた結果、スマートグラスは一過性の流行としてしぼんでしまった。しかし、OTON GLASSは「父親の役に立ちたい」という強い動機が出発点になっている。それゆえ、歩みが止まることはなかった。

あれから5年が経ち、数多くの試作品やバージョンアップを重ねながらOTON GLASSは進化を続けてきた。2017年からは受注生産による販売を開始。2019年3月にはアイウエア事業を展開するジンズを引受先とする第三者割当増資による資金調達を実施し、事業協力を開始した。これにより眼鏡のつるに取り付けるアタッチメント型の新モデルが生まれ、定価19万8000円(税別)で販売されている。視覚障がいの当事者は市区町村の補助を受けることができれば、障がいの程度や状況によって0~1割の負担で購入できる。

2019年3月に発表したOTON GLASSの新モデル。眼鏡のつるにアタッチメントを装着して利用する(出所:オトングラス)
2019年3月に発表したOTON GLASSの新モデル。眼鏡のつるにアタッチメントを装着して利用する(出所:オトングラス)

社会課題の解決を軸にしたベンチャーがここまでのステップアップを実現するのは珍しい。逆に言えば、世の中が課題解決型社会へと成熟しつつある証なのかもしれない。次のステップへ歩を進めたオトングラスはいま、何を思うのか。島影氏に話を聞いた。

テクノロジーで能力を拡張し、新たなライフスタイルを提供

――今回、ジンズの協力を得て次へ進もうと思った理由は?

これまでも実際に自分たちで3Dプリンターを使いながら、受注生産で販売できる製品は作っていたんです。今後、より生産力を高め、より良い製品を作るため、そしてOTON GLASSを必要とする多くの人に届けるためにジンズとの事業協力を開始しました。まさに新しくスタートを切った感じです。

――OTON GLASSは単なるスマートグラスではありません。もともとは父親の失読症をサポートするために開発したそうですね。

はい。確かに最初は父のために開発しましたが、おかげさまでほぼ完治しました。今は弱視を抱える人たちから求められています。OTON GLASSがほしいと言ってくれる人たちがいて、一歩一歩、緩やかに成長してきました。

今回のモデルの定価は19万8000円(税別)です。当事者の購入申請を受けた市区町村がOTON GLASSを日常生活用具として適合するものだと判断した場合、障がいの程度や生活状況に応じて0~1割の負担で購入できるようになります。そうすれば約2万円以下で購入でき、困っている人たちに届きやすくなる。まずはその対象として認知してもらう必要があります。

2018年6月には全国で初めて兵庫県豊岡市で「日常生活用具給付事業」の対象品目に追加されます。豊岡市は安全かつ安心して暮らせるまちづくりを進めており、市民の暮らしを支える上で、OTON GLASSの日常生活用具認定はその具体的な実践のひとつに位置づけられます。市長や眼科の先生、体験会や制度を設計した市の担当者の方々の協力があり、補正予算として組み込まれることになりました。

オトングラスの島影圭佑氏(写真:小口正貴)
オトングラスの島影圭佑氏(写真:小口正貴)