――注力している対象はどんな人たちですか。

今は弱視に悩む高齢者の方々です。視覚障がい者の80%が後天性であり、60歳以上で合計72%を占めると言われています。高齢化に伴う病気の発症が原因となり、視覚障がい者になる割合が多い。突然、年を取ってから視覚的な障がいを抱えると高齢になってから点字を覚えるのがかなり高いハードルになります。そこで何らかの道具やテクノロジーで能力を拡張して、目が見えづらい状態になっても、前向きに生きていけるような、新たなライフスタイルを提供したいのです。

そうした人たちにOTON GLASSを使ってもらうと、「これなら自分たちも使える」というポジティブな反応が返ってきます。すごくシンプルなので使いやすいと。昨今はスマートフォン(スマホ)にも弱視のユーザー補助機能などがありますが、高齢者はスマホの操作に慣れておらず、視覚に障がいがあるためフラットなスクリーンが使いにくい面もあります。メガネ型に行き着いたのは、自分の身体感覚と操作性をいかにスムーズにつなげるかを考えた結果。だからこそ高齢者でも簡単に使えることを心がけました。

テクノロジーの恩恵をメインストリームから外れた人たちに

――大学ではプロダクトデザインを学びました。以前からモノに対するこだわりはあったのですか。

OTON GLASSの開発と普及を通じて、より深くモノが与える影響力を実感してきました。実際に体験できるモノがあると、それを起点にさまざまなことが起こります。OTON GLASSを欲しいと言ってくれたら、すでにそこで価値循環が発生しているわけです。

豊岡市の例で言えば、自治体の補助を受けてOTON GLASSが0~1割負担で購入できるようになりました。それはつまり、障がいのある人たちにとって住みよいまちを作りたいとの思いから自治体が支援しているということ。何らかの人工物が介在して、社会が変わりつつあることを実体として感じられた好例です。

――父親の病気が契機とは言え、この難題に挑もうと思ったのはなぜですか。

もともと、誰かの生活や社会に影響を与えるモノづくりがしたいとは思っていました。そこにちょうど3.11(東日本大震災)が重なり、人類や社会が逃れられない、簡単には解決できない課題があることを改めて突きつけられた気がしたんです。その課題に対してどんなアプローチができるのか――それは僕も考えていたし、時代の空気としてもありました。

もう1つ、『Design for the Other 90%』という本にも影響を受けました。これは世界の全人口の10%、つまり先進国や富裕層しかデザインの恩恵を受けていないとの主旨で、途上国向けの水の運搬が楽になる道具、100ドルラップトップなどの事例を集めた展覧会がもとになっています。今まで対象としてこなかった人たちに対して、モノづくり、デザインの力を介して課題を解決していくアプローチです。

そのとき「あ、この感覚だな」と思ったんです。高齢で病気になった人たちは、メインストリームである90%から完全に排除されている。そしてOTON GLASSはメインストリームの外側にいる人たちが対象です。僕はむしろ、メインストリームから外れた人たちに届けたい。イメージとしては大きな森林ではなく、小さな池にできる生態系。そんな世界を作りたいのです。

島影氏は強い意志を持って小さな生態系を広げようとしている(写真:小口正貴)

――非常に面白い視点ですね。

まずはこのスケール感で、求めている人たちに届けばいい。規模は小さいかもしれませんが、生態系が存在し、サステナブルに経済が回るシステムが成り立っていますから。そしてこの考え方自体、長期的な生物多様性の観点で見たときに、とても意味があるものです。

どんどん超高齢社会が進んだときに、当然ながら多くの人が“高齢者”になります。そうなると平均的な身体を対象としたメインストリームの考え方は通用しなくなっていくでしょう。そこには、多様性を許容できない社会ができる可能性があります。

これから重要なのは、いかにマイノリティにきちんと力を与えていくかということ。そのときの受け皿として小さな生態系を機能させたいですね。僕らだけではなくて、この小さな生態系があちこちにたくさんできている状態によってそれが成り立ちます。自分たちが望む社会を自らの手で作っていくこと――それこそ、ソーシャルスタートアップの姿だと思います。