リゾート地で仕事と休暇を混合する新たな働き方である「ワーケーション」。2019年6月、長野県信濃町とNPOがコラボレーションして誕生した「信濃町ノマドワークセンター」は、自治体主導のワーケーション施設といった話題性に加え、地域振興のモデルケースとしても注目されている。自然に溢れた環境で1週間滞在を前提としたプランは、都市部のオフィスワーカーの“心”をどのように変えるのか。

観光地を軸にワーケーションの機運が高まる

都市部集中の働き方を見つめ直すムーブメントとして「ワーケーション」が脚光を浴びている。WorkとVacationをかけ合わせた造語で、保養地で仕事をしながら休暇を楽しむ、というものである。

休暇先の施設にWi-Fiやデスク、コピー機といった環境が整備されているのが一般的なスタイルだ。保養所にコワーキングスペースがあると想像すればわかりやすいかもしれない。例えば2泊3日なら1日は仕事をして、残り2日は周辺地域の観光や、社員同士でアウトドアのアクティビティを楽しむ。非日常的な空間でリフレッシュしつつ生産性を向上させ、メンタルヘルスをケアするといった効果も見込む。

1台のノートPCがあれば仕事をこなせる時代ならではの働き方であり、国が推進するテレワークの流れとも合致する。有名なところでは静岡県の熱海や和歌山県の南紀白浜など、かつて社員旅行で賑わった観光地が施設を構え、ワーケーションの呼び込みに力を入れている。

こうした中、長野県信濃町に「信濃町ノマドワークセンター(以下ノマドワークセンター)」が2019年6月にオープンした。人口約8300人、緑豊かなこの地になぜワーケーション施設が生まれたのか。企画から運営を担当するNPO法人であるNature Service共同代表理事の赤堀哲也氏に話を聞いた。

信濃町ノマドワークセンター(提供:Nature Service)
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脳波測定器で証明、自然環境での作業が能率向上に寄与

赤堀氏の本業は、デジタルコンテンツ制作やITコンサルティングを手がけるマーキュリープロジェクトオフィスの代表取締役社長だ。もともと個人的にアウトドアやキャンプが大好きだったこともあり、2013年に仲間と一緒にNature Serviceを設立した。

Nature Service共同代表理事の赤堀哲也氏(写真:小口正貴、以下同)
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2016年、Nature Serviceは信濃町から「やすらぎの森オートキャンプ場」の指定管理者の承認を受けた。このキャンプ場はかつて町営だったが、利用者の減少により閉鎖。再生を託されて2度目の出発を図った。

高速Wi-Fi、EV(電気自動車)充電スタンド、IoTを活用した無人チェックインシステムなど設備を充実させた結果、2016年は394人、2017年は2536人、2018年は4002人とうなぎ登りに利用者数が増えた。キャンパー同士の交流会や森の中でのジャズライブなど積極的にイベントも仕掛ける。そのかいあって、2019年は5000人を突破する勢いだという。

やすらぎの森オートキャンプ場。取材に訪れた7月の3連休初日は大盛況だった
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この成果によって信濃町との信頼関係を築いたNature Serviceは、キャンプ場に隣接する遊休施設をワーケーションの拠点として再構築できないかと持ちかけた。施設はそば打ち体験道場として営業していたが、思うように集客できずに2018年で閉鎖。そこで時代性を加味した“町にとってメリットのある提案”を行った。

「これから町の定住人口が増えることは考えにくい。ならば町の外から人を連れてきて、町内の消費活動を活性化させる必要がある。まずは地域経済、地域振興を実現するための施設として生かせないかと考えた。ノマドワークセンターに宿泊機能はない。30〜40人単位でワーケーションに来たら、地元のペンションやホテル、旅館に泊まってもらうことを前提とした。食堂もないので、地元の農産物を使ったケータリングを利用する。これが地産地消につながる。さらに滞在期間中には自然体験を組み込んでいて、それがネイチャーガイドの安定収入となる」(赤堀氏)

この提案を受け、議会での検討や公募・企画競争を経てノマドワークセンターが完成した。竣工に先立ち、Nature Serviceでは自然が体にもたらす好影響を定量化するため、2017~19年にかけて北里大学や慶應義塾大学、医師らの協力を得て簡易脳波測定器「感性アナライザ」による実証実験を実施。調査の結果、参加者の80%が都内オフィスよりも森林環境で作業に対する興味が高まり、作業成績が向上する傾向が見られた。「脳がポジティブに活性化していることがエビデンスとして明らかになり、企業にも説得力を持って薦められるようになった」(赤堀氏)。

広々としたワーキングゾーン。調度類もオシャレで凝っている
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