神戸市が2016年から米国のベンチャーキャピタルと開催してきたスタートアップ育成プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」が、ヘルステックに的を絞って第2期へと突入する。背景には、医療産業と親和性の高い神戸市ならではの事情がある。豊かな医療資産とヘルステックの融合によるイノベーション、その舞台として神戸市が最適な理由とは。

「最初からヘルステックで開催したかった」のが本音

神戸市が米サンフランシスコの有力ベンチャーキャピタル(以下VC)の「500 Startups」と共同で2016年から取り組むスタートアップ育成プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」。過去3回の開催ではデジタル領域全般のスタートアップを対象とし、これまで56社を採択してきた。主催者の神戸市が成果指標とする資金調達額は80億円を突破。自治体が仕掛ける育成プログラムとしては破格とも言える成長曲線を描く。

4回目となる2019年は、これまでのデジタル全般から舵を切り、ヘルステック領域に的を絞った。2019年7月29日から9月15日まで応募を受け付け、11月4日から全6週間にわたるプログラムが開始される。そして12月16日のデモデイで、最終的な成果物を発表する流れだ。

日本のみならず海外でも知名度が向上したこのタイミングで方向転換したのはなぜなのか。「500 Startups Kobe Accelerator with a focus on HEALTH」(以下500 Startups)のキーパーソンである神戸市医療・新産業本部新産業部新産業課長の多名部重則氏に話を聞いた。

――そもそも神戸市がスタートアップ支援に乗り出そうと思ったのはいつ頃ですか。

2015年の4月です。従来型の企業育成はもちろんのこと、時代を見据えたスタートアップや起業家の支援をしていこうと考えたのがきっかけです。

当時、福岡市が創業特区を活用してスタートアップ誘致に力を入れていましたが、政令市ではそれ以外の動きはほとんどなかったので早い段階と言えます。ですから最初は手探りで、どう取り組めばいいのかわからなかったのです。そこで出てきた1つの解が育成プログラムでした。メンタリングしながら育てるVCの思想ですが、その頃は神戸市に有力なVCがなかった。そこで一緒に取り組んでくれる相手をずっと探していたのです。

神戸市スタートアップ支援のキーパーソン、多名部氏(写真:小口正貴)
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――なるほど。そこから500 Startupsとつながるわけですね。500 Startupsは数々の実績を持つ著名VCですが、なぜ海を越えて彼らとタッグを組もうと思ったのでしょうか。

2015年6月、久元(喜造)市長が米国西海岸に出張する機会があり、そのときに偶然、500 Startupsのサンフランシスコオフィスを訪問しました。その段階では具体的な企画が決まっていたわけではありませんが、当時の500 Startupsの幹部であるザファー・ユニス(Zafer Younis)氏が日本に非常に興味を持ってくれていまして。「神戸市が本気でスタートアップ育成に取り組むのであれば、一緒にやろうじゃないか」と。

この取り組みは彼らにとって初の海外でのプログラムです。当然、自分たちのプログラムが他の国で通用するのか未知数な部分が多く、大きなリスクがあったわけです。ただでさえ自治体、メガバンク、レガシーの大企業によるスタートアップ支援は流行に飛びついているように見られてしまう傾向があります。それをひっくり返すには、こちらの本気度、熱意を示すしかありません。ですから必死に交渉しました。その交渉過程で信頼関係を築くことができ、結果的に神戸市が強力なパートナーになることができたと自負しています。

――2016〜2018年の3年間を経て、今年はヘルステックへと的を絞りました。この理由は?

最初からヘルステックで開催したかったのが本音です。なぜなら神戸市には1998年、21年も前から整備してきた「神戸医療産業都市」という確固たるベースがあるからです。ご存じのように神戸医療産業都市は、神戸市のポートアイランドに約350もの企業、大学、高度専門病院群、研究所などが集積し、1万1000人が働いている日本有数のメディカルクラスターです。そこには間違いなく、イノベーションのリソースが存在しています。

ヘルステックのスタートアップにとって、このバックグラウンドは何ものにも代え難く、融合することで新たな価値が生まれるはずです。方向転換にあたり、500 Startupsを説得するのに3カ月間を要しましたが(苦笑)、最終的には前向きに捉えていただきました。

500 Startups Kobe Accelerator with a focus on HEALTHのページ。背景画像が神戸医療産業都市(出所:500 KOBE ACCELERATORのホームページ)
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