従業員のストレス軽減や生産性向上をもたらす効果として、オフィス空間の快適さを追求する動きが出てきた。米国生まれの次世代オフィス環境基準「WELL認証」は単に設備だけではなく、空間づくりや働く人たちのウエルネスにも焦点を当てる。国内でもじわりと広がりつつあるWELL認証の可能性に迫った。

働き方改革の波に乗り、日本企業が熱視線を注ぐWELL認証

居心地のいい住まいがストレスを軽減するように、1日の大半を過ごすオフィスもまた働きやすい環境であるのが望ましい。一方で“何が快適なのか”を測る基準の難しさもある。そこで次世代のオフィス環境基準として米国で生まれたのが「WELL認証」である。

WELL認証はオフィスで働く人たちの健康や快適性にフォーカスした建物・室内環境の評価システム。米国DELOS LIVINGが考案し、運営を公益企業のIWBI(International WELL Building Institute)、認証をGBCI(Green Business Certification Inc.)が担う。2014年10月にv1、続く2018年5月にはv2が公開されている。

端的に言えば、働き方改革や健康経営など、社会の趨勢を反映した基準と言える。だがその審査は思いのほかハードルが高い。v1の評価項目は①空気、②水、③食物、④光、⑤フィットネス、⑥快適性、⑦こころ、の7概念に分けられ、さらに概念ごとに細かい決め事がある。評価軸には必須項目と加点項目があり、必須項目をすべて達成してようやくシルバー。これに加点項目40%以上の達成でゴールド、同じく80%以上の達成でプラチナとなる。

2019年6月末現在、日本の登録件数は19件。そのうち2件が認証済みで、3社が予備認証を受けている。予備認証の1社であるイトーキは、新本社となる「ITOKI TOKYO XORK(ゾーク)」が評価された。2018年秋に首都圏のオフィスを集約し、新たに東京・日本橋に移転。オランダ発祥の自律的なワークスタイルを提唱する「ABW(Activity Based Working)」を採り入れながら、“人と活動を基軸にした新たなオフィスづくり”を標榜する。

WELL認証で予備認証を受けたITOKI TOKYO XORK(出所:イトーキ)
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ゼネコンの清水建設もWELL認証に意欲を見せる。2020年3月に竣工予定の「横浜グランゲート」は、竣工前の2018年4月の段階で予備認証を取得した。同社が設計・施工を手がけ、みなとみらい線の新高島駅直上に位置する地上19階のビル。2020年10月にはソニーのカメラ開発子会社である「ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ」が入居する。

清水建設はWELL認証の専門知識を有する「WELL AP」(認定プロフェッショナル)の資格者が60人を超えるなど、豊富なノウハウの蓄積が売りだ。2018年7月には、中国・上海の海外子会社である清水中国社がWELL認証を取得している。国内で予備認証を取得済みの清和ビジネスも同社のコンサルティングによるもの。東京・豊洲エリアの大規模複合開発でもWELL認証をにらんだオフィス棟を手がける。活発な取り組みの背景には、今後の日本のオフィスビルにとってWELL認証そのものがインセンティブになるとの思いがある。

2019年6月にWELL認証に登録した「point 0 marunouchi(ポイントゼロ マルノウチ)」は、ダイキン工業、パナソニック、オカムラ、東京海上日動火災保険、ライオン、MyCity、アサヒビール、TOA、TOTOと、幅広い業種の事業者が参加した会員型のコワーキングスペース。2019年7月からは未来のオフィス空間づくりに向けた実証実験を開始し、設備ネットワーク、空間IoTネットワーク、業務ネットワークの領域で各社が協力する。

point 0 marunouchiでの実証実験スキーム(出所:ダイキン工業)
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例えば東京海上日動火災保険はストレス度などのセンシングデータ分析、ライオンは口腔内センシングによる口臭リスクのチェック、TOTOは水回り空間での使用実態データ分析といった具合に強みを持ち寄る。

それぞれをつなぐハブには、ダイキン工業が主導する空間協創プラットフォーム「CRESNECT(クレスネクト)」を採用した。データを収集・分析・可視化することで空調や香り、音楽、照明などをコントロールしながら働きやすく心地よい空間づくりを演出する。通常のオープンスペースに加え、仮眠ブース、パーテーションで区切った集中ブースなどを備え、コワーキングスペースでは国内初となるWELL認証の取得を目指す。