噛まずに舌ですりつぶせる柔らか唐揚げの衝撃

デリソフターは2020年3月の発売をめどに鋭意開発を進めている。そして、打ち合わせや取材の場では、試作機で軟らかくした食材を食べてもらうプロモーションを必ず実施するのが決まりだ。

筆者もブロッコリーと鶏の唐揚げを試食した。どちらも上顎と舌の動きだけですりつぶして飲み込むことができ、味もほとんど変わらない。正直なところ、野菜であるブロッコリーは温野菜のイメージがあるため何となく想像がついたが、肉である唐揚げは人生で初めて味わう食感だった。

デリソフターで調理したブロッコリーと唐揚げ(画像提供:ギフモ)
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「介護食でタンパク質を軟らかくする発想はなかなか出てきませんが、どうしても肉を食べさせてあげたいと思ったんです。唐揚げは子どもからお年寄りまで人気があって栄養価が高い食べ物です。食べる所作は、まず食べ物を目で認識するところから始まりますよね。栄養だけを考えたらミキサーでペースト状にして肉を混ぜてもいいのかもしれませんが、食べる楽しさは大きく失われてしまいます。それに形のあるものを食べてもらうことで、少しでも顎の筋肉を鍛えてほしいという目的もあります」(水野氏)

デリソフターがフォローするのは、見た目がそのままの「ソフト食」。現状、圧力鍋による長時間調理などで非常に手間がかかるものだが、パナソニックの英知を生かして「高齢者でも簡単にボタンを押すだけで操作できる」(水野氏)機器を目指す。試作機は大きめの炊飯器のような形状で、スチーム加熱と圧力、そこに“隠し刃”による一手間を加えた。この隠し刃は特許を取得している。

「たくさんの小さな刃が形を崩さないように食べ物の間に入って、その穴の中にスチームが入ってくるイメージです。肉の場合は筋に沿って刃が入るので、あえて“肉を食べた”感触を残しています。形が残っていても、口に含んだ瞬間にぐちゃっと潰れてしまっては意味がありませんから」(森實氏)

一般家庭モニターでの反応も上々だったという。これまで知られている調理法ではどうしても妥協せざるを得なかったり、食事の種類が限られたりしたが、「デリソフターを使えば家族と同じ形のものを食べることができて、しかもおいしさもそのままだとのフィードバックをいただいています」(水野氏)。1カ月の長期にわたるモニター期間中、半月を過ぎる頃からいろんなレシピへのトライも自発的に始まり、ギフモだけでは想像もつかなかった食事も生まれた。水野氏も刺激を受け、外食チェーンで買ってきた餃子と焼きそばを軟らかくするといった炭水化物への応用も試している。

「私自身、工夫次第で食の楽しさが増えることを実感しています。最初は介護食を軸に考えていますが、離乳食に使えないかとの声や、障害を抱えた子どもたちへのニーズもたくさんあります。普通食の延長にデリソフターで簡単に作れるソフト食があれば、これまで味わえなかった人たちもおいしい食事を食べられるようになる。そんな世界になればいいですね」(水野氏)

森實氏はギフモという不思議な社名を「ギフトと思いをかけ合わせた造語。食の幸せとは、食事を作る人、食べる人の思いの贈り合いなんです」と説明してくれた。この6月にはイノベーティブなスタートアップの1社としてG20大阪サミット レセプションに招かれ、各国要人や政府関係者への試食アピールにも成功した。デリソフターによる介護食のイノベーションが、もう少しで始まろうとしている。