健康寿命延伸には適度な運動が欠かせない。しかも、歩行や運動は継続してこそ健康価値が生まれる。多くの人が途中で挫折を繰り返す中、自らの行動を変える「行動変容」が注目を浴びている。デジタルヘルスの世界では、ゲーミフィケーション(ゲーム的要素)を採り入れたサービスによる行動変容改革が進む。

ある地方都市では1日1歩につき0.061円の医療費を抑制

2018年度の国内医療費は42.6兆円、前年度比で約3000億円の増加となった。そのうち後期高齢者である75歳以上の1人あたりの医療費は平均93万9000円。これは75歳未満の4.2倍にも及ぶ。政府が躍起になる「1日でも長く健康で暮らす」健康寿命延伸の目的は、言うまでもなくこの莫大な医療費抑制にある。

科学的根拠に基づいた健康的なまちづくり「Smart Wellness City(SWC、スマート・ウェルネス・シティ)」を牽引する筑波大学大学院人間総合科学研究科の久野譜也教授らは、長くSWCに参加する新潟県見附市の健康教室参加者を対象に調査を行った。その結果、1日1歩あたり0.061円の医療費抑制効果が見られた。そのほか、糖尿病の疾患・発症リスク低下などでも歩行による抑制効果が報告されている。

こうしたエビデンスベースの研究成果により、日常生活に紐づくウオーキングにこれまで以上の期待が寄せられている。スマートフォン(スマホ)や腕時計型ウエアラブルデバイスにより、自らの行動や運動量を手軽に可視化できるようになったことも大きい。一方でこれらツールの利用に厳然たる壁として立ちはだかるのが、もともと健康意識の高い人たちばかりが利用し、健康になってほしい人ほど利用していないという現実だ。そこで行動変容を促す手段として、インセンティブやゲーミフィケーション(ゲーム的要素)を加味したサービスが普及し始めた。

行動変容のステージモデル(出所:厚生労働省、e-ヘルスネット)
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まずは、ゲームそのものが行動変容を加速する。代表例のスマホゲーム「Pokémon GO(ポケモンGO)」(Niantic)は、2019年7月にスポーツ庁から「Sport in Life」プロジェクトの認定を受けた。Sport in Lifeはスポーツを生活習慣の一部とすることを目指すもので、ポケモンGOは多数の人に楽しく歩く場を提供していることが評価された。高齢者にも人気が高く、神奈川県はコラボしたウオーキングマップを作成。県内の市町村窓口で配布するなど、未病対策にポケモンGOを活用している。また、東京大学の樋野公宏准教授らによる研究では、中高年の利用者に明らかな歩数の増加が認められた。

2019年に大人気を博した「ドラゴンクエストウォーク」(スクウェア・エニックス)は現実世界と仮想世界を組み合わせたスマホゲーム。位置情報を利用して、キャラクターやポイントを入手するなど町中を歩くことを前提としており、特定の歩数をクリアしてアイテムなどの報酬がもらえる「歩いてほっかほかキャンペーン」「歩いておでかけキャンペーン」を展開してきた。正面からヘルスケアをうたってはいないものの、公式Twitterの反応を見ると「歩くきっかけになる」との評価も多い。ゲーム力の強さで重い腰を上げさせる好例と言えよう。

Vitalityアプリの画面イメージ(出所:住友生命保険)
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生命保険各社が注力する健康増進型保険も、行動変容に積極的だ。住友生命保険のヒット商品となった「Vitality(バイタリティ)」は、契約者がスマホアプリで健康状態のチェック、健康診断や各種検診の結果、運動結果などを登録することでポイントを獲得。ポイント数に応じて支払う保険料が変動する。さらに電子マネーギフトに交換できる「Vitalityコイン」を用意し、継続的な健康活動を支援する。加入後のアンケート調査では、以前よりも健康を意識するようになった人が93%を占め、1日あたりの歩数率は17%増加と着実に成果が表れた。2019年12月には日本ウオーキング協会と業務提携を結び、さらなる啓発活動を続けていく。

IT企業と生命保険会社の協業もある。ディー・エヌ・エーは2019年8月、子会社のDeSCヘルスケアを通じて「kencom×ほけん」を朝日生命保険の契約者全員への提供を開始した。DeSCヘルスケアが全国の健康保険組合など向けに展開している利用者の健康状態を分析し、健康関連情報を届けるアプリ「kencom」をベースにしたもので、その平均利用継続率は85%と高い数値を誇る。kencom×ほけんでは健康関連情報、歩数の自動記録、歩くだけでポイントが貯まるプログラムなど、能動的に健康増進を図る仕組みを実装した。継続するためのスパイスとして、スポーツやゲームなどで培ってきたディー・エヌ・エーグループ内のノウハウ「エンゲージメントサイエンス」をフル活用する。