事業化を念頭に入れた濃いピッチ

新規事業探索プログラムでは、提案者がピッチによるプレゼンテーションを行う。対象はアニマルヘルスに有用な事業で、医療、診断、検査、バイオ、AI(人工知能)/IoTといったデジタルヘルス分野などになる。ポイントは賞を授与することが目的ではなく、当初からDSPAHとの協業を念頭に入れていることだ。共同で事業化することで、提案者の早期の収益確保と成功確度を高めるのが狙い。そのため、あらかじめ共同事業化の可能性を対等に議論して選考し、ピッチ前には入念なメンタリングを実施する。審査に同社の経営幹部が携わっている点からも“本気度”が伝わってくる。

過去のプログラムでは、2016年度に大阪大学産業科学研究所チームによる「革新的な核酸クロマトによる動物感染症の診断技術」、2018年度に京都市のAIベンチャーであるHACARUS(ハカルス)による「スパースモデリング応用の支援AI」が大賞を受賞。前者は受賞を契機に大学発ベンチャーのビズジーンを立ち上げ、現在、DSPAHとともに酪農分野における感染症の迅速検出法を提供する準備を進めている。後者はあにさぽと連携し、AIを活用した動物の健康状態関連情報の提供を支援。2020年度の事業開始を予定する。

2020年1月23日、2019年度下期の新規事業探索プログラムが大阪市で開催された。2019年度上期には大手家電メーカーも参加するなどデバイスやデジタルヘルスに絞った提案だったが、逆に下期はアカデミアによる研究や素材提供、注射技術とバラエティに富んだ内容となった。選出されたのは全6社で、そのうち2社は初の海外現地からの参加だ。メンタリングを含めてピッチの運営で協力するSARR代表執行社員の松田一敬氏は「積極的に告知しているわけではないが、評判を聞きつけて海外にも広がっている」と語った。

DSPAHと共同で運営に携わるSARR代表執行社員の松田一敬氏(写真:小口正貴)
DSPAHと共同で運営に携わるSARR代表執行社員の松田一敬氏(写真:小口正貴)
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DSPAH新規事業部長兼池田動物細胞医薬センター長の永原俊治氏は「技術の優劣を競うものではない。一緒に歩むパートナーを選ぶのがこのピッチの目的」と改めてプログラムの主旨を述べ、新たなパートナーシップの構築に期待を込めた。

DSPAH 新規事業部長兼池田動物細胞医薬センター長の永原俊治氏(写真:小口正貴)
DSPAH 新規事業部長兼池田動物細胞医薬センター長の永原俊治氏(写真:小口正貴)
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アカデミアからは愛媛大学発ベンチャーのVEQTA、九州大学発ベンチャーのKAICOがエントリー。VEQTAは犬に罹患率の多い皮膚疾患を腸内フローラのアプローチから解決するソリューション、KAICOは蚕から発現したタンパク質の動物薬への活用を発表した。また、昭和大学薬学部教授の佐藤均氏が顧問を務めるファーマエージェンシーは、フィリピンからのカニクイザルの髄液の培養液提供と、痛みのケアに用いられる精神作用のない大麻抽出成分であるカンナビジオール(CBD)の動物医療への展開をプレゼンした。

海外現地の2社は「注射」が共通項となった。米国のPharmajetはワクチンと治療薬の針なしジェット注射をアピール。イスラエルのBioChangeは、注射によってスキャフォルド(細胞増殖を促す足場)を注入し、尿失禁を抱えるペット向け治療技術を紹介した。

動物関連ヘルスケアのピッチイベントは筆者にとって初体験だったが、ヒトと何ら変わらない内容が印象的だった。超高齢社会が進む中、認知症予防のアニマルセラピーに犬や猫が登用されるなど、動物たちはさらに「仲間」としての存在感を高めている。人間と並行しながら、これからも新たな時代のヘルスケアが発展していくに違いない。