調査から見えてきた「認知症の血液検査」の可能性

――開発で苦労した点は。

木村 たくさんあった。使う移動相によって分子種が上手く分かれなかったり、逆にD体とL体が分かれなかったり。これまで2ステップだったものを一緒にして考えなくてはならないため、チャレンジの連続だった。キラルアミノ酸の研究は日本がリードしており、他社も積極的に取り組んでいるが、競争が激しい中で独自技術を開発できたのは幸運だった。花王が蓄積してきたさまざまな研究の知見や、難しい分析を可能にしてきた歴史なども大いに関係していると思う。

――その後に大規模コホート研究に参画して、認知機能との関連を調査した。

木村 65歳以上の女性を対象に、東京都健康長寿医療センターとの共同研究に参画した。MMSEという専門医の問診に基づいた認知機能簡易検査によって、健常者、MCIの疑いのある人、認知症の疑いのある人に分けて、全305人を対象に血中のキラルアミノ酸の一斉解析を実施した。

結果、L-アミノ酸では有意な差は認められなかったが、MCIや認知症の疑いのある人たちでは、血中キラルバランス(D体の存在比)が上昇していることが見えてきた。とりわけD-プロリンとD-セリンは認知機能の低下につれて増えていくことがわかった。すなわちD-プロリンやD-セリンの存在比を見ることで、血液検査でも認知機能を把握できる可能性が出てきた。まだまだ妥当性検証も必要だが、こうしたポジティブなデータが出てきたことは励みになる。

認知機能とD体存在比の関係(提供:花王)
認知機能とD体存在比の関係(提供:花王)
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――この方法がスタンダードになれば、血液検査によって認知症の早期診断が可能になる。将来の展望はどのように考えているのか。

木村 将来的にソリューションの展開に広げていければ事業としても盛り上げていけるだろう。血液で脳の健康状態がわかり、早期段階で認知症の疑いへの気づきを提供できれば、大きな社会貢献になる。それに認知症にならなければ、患者家族の経済的損失も回避できる。血中のバイオマーカーを組み合わせることで多くの人を救っていきたい。