超高齢社会に伴い、要介護認定者が増え続ける日本。対して介護の担い手は慢性的な人手不足が続き、現場の効率化が大きな問題となっている。逼迫する状況の一助になるべく、あるスタートアップが画期的な排泄センサーを開発。介護のIoT化がもたらす効果を聞いた。

「Helppad(ヘルプパッド)」という商品がある。ベッドに敷くだけで要介護者の排泄を検知できる介護用センサーで、「におい」がトリガーになっている。においセンサーで排尿・排便を検知後、介護職員に通知する仕組みだ。

さらにクラウドでデータを管理する機能を用意。誰が、いつ、どんなタイプの尿あるいは便をしたのかをデジタル記録できるほか、通知や記録の傾向を重ね合わせることで排泄パターンを作成できる。作成には独自アルゴリズムのAI(人工知能)を用いる。

ヘルプパッドの製品イメージ(提供:aba)
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パターンがわかれば、これまで職員の勘に頼っていたおむつ交換のタイミングが共有され、新人でもデータに従って対応できるようになる。データ管理はWebサービスで行うため、職員にとっては習得の負担が少ない。ヘルプパッドは介護でも難題の1つである排泄処理をIoTで効率化し、人手不足にあえぐ現場作業に貢献するデバイスといえる。

手がけたのは千葉県船橋市のスタートアップであるaba。パラマウントベッドとの長年の共同開発の末、2019年1月から販売を開始した。現在は各地施設の実証と並行しながら本格導入を進め、将来的にはパラマウントベッドのコネクションを生かして施設数を増やしていくという。

ヘルプパッドは、aba代表取締役の宇井吉美氏の熱い思いから生まれた。原点は中学生のときに体験した祖母のうつ病、そして大学時代に研修先の特別養護老人ホームで経験した排泄ケアの難しさだ。ヘルプパッドが介護現場の何を変え、どんな効果をもたらすのか。宇井氏に話を聞いた。

おむつを開けずに中身の状態が知りたい

――そもそも介護業界の支援をしたいと思ったきっかけは何ですか。

宇井 中学生のときに祖母がうつ病になってしまい、介護が必要となりました。それが介護者を支えたいと思うようになった原体験です。その後、介護支援ロボットを作りたいとの思いから千葉工業大学に進学しましたが、大学時代の特別養護老人ホーム(特養)での経験が今の事業につながっています。

当時、研修の一環で特養に行った際、トイレの中で要介護度が高い人に対して介護職員がお腹を押す現場を目の当たりにしました。もちろんこれは虐待ではなく便を出すための方法なのですが、介護現場を見たことがなかった自分はその場で涙ぐんでしまいました。

aba代表取締役の宇井吉美氏(提供:aba)
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思わず職員の方に「これは本人が望んでいるのですか?」と聞いたら、(意思疎通が難しいからという意味で)「わからない」と。背景には切実な事情があります。その要介護者は在宅で介護されていたのですが、自宅で便失禁があるととても大変なので、できれば施設に預けたときに出してきてほしいと家族からお願いされていたそうです。そのため、朝来たときに便を促すように下剤を飲んでもらい、夕方になると腹圧をかけて少しでも便を出すようにしているのだと話してくれました。

そのとき、家族の思いにしっかり応えようとする介護職員の真摯さを感じて、介護者支援をやりたいと考えるようになりました。私が介護支援ロボットを作ろうとしていることを伝えると、「おむつを開けずに中身の状態が知りたい」と要望されて。そこから10年以上、排泄関連の研究開発を続けています。

――ヘルプパッドはにおいで尿と便を検知する点が画期的です。最初からこのアイデアにたどり着いたのでしょうか。

宇井 いいえ。当初は他社同様に「濡れたら検知する」タイプの製品を研究開発していました。しかし、我々は介護現場から「機械を何も身に着けずに検知してほしい」「尿と便のどちらもわかるようにしてほしい」と言われていました。その両立を考えた結果、ベッドに敷くシート型で、においをセンサーで検知するタイプにたどり着いたのです。センサーに物質が付着したときの抵抗値の変化で判断しています。変化を見ることで「においがしている」ことがわかる仕組みです。

とは言え、そこに行くまでは試行錯誤の連続でした。研究レベルでは、空気を吸い込むためのチューブを股の中に入れるタイプの論文も見かけました。でも装着感も良くないし、衛生面でも問題がありました。何しろ排泄は倫理的な面でもデリケートなので、実証を行うにしても「なぜそこまで外部の人間に公表しなくてはならないのか」との意識が強い。ですから、施設の理事長のトップダウンで決まっても、現場からの理解が得られないケースもありました。

――パラマウントベッドとはどのようにして知り合ったのですか。

宇井 2012年秋ごろに「日経ビジネス」のベンチャー特集に当社が掲載された記事を見て問い合わせがあったんです。実はパラマウントベッドでも若手技術者の勉強会で同じようなことを考えていたそうです。さまざまな企業や大学をチェックしていたようですが、当社が「最も現場のことを理解している」と感じてくれたとのことでお声がけいただきました。その出会いから実際の販売に至るまでは足掛け8年。もはやabaとパラマウントベッドの担当者は「ヘルプパッドチーム」と呼んだほうがしっくり来ます。

今後の展開でもパラマウントベッドと組んでいる意義は大きい。パラマウントベッドの睡眠センサーの導入数が非常に多く、そうした介護施設ではIoTやITに対するリテラシーが高いわけです。まずはそこに対してきちんと販売していきたいと考えています。