「バーチャルリアリティ(VR)元年」とも呼ばれる2016年。エンターテインメントに目が向きがちだが、実は医療業界では早くからVRを活用してきた。そして近年のグラフィック性能の飛躍的な進化により、医療におけるVR活用は新たな段階へと進みつつある。VRと医療、その未来への萌芽を追った。

グーグル、マイクロソフト、ソニー、インテル、サムスン……世界の名だたる企業がVR市場に参入している。こうした状況から2016年はVR元年とも呼ばれる。ただ、医療の世界では1980年代からVRの可能性に着目してきた。日本でも2001年に「日本VR医学会」が設立され、医学系・工学系の研究者が研究・開発に取り組んでいる。

医療分野でVRを活用しやすい領域は医療教育・シミュレーションだ。日本VR医学会の学会理事長挨拶には、VRは「低侵襲化を目指す外科手術ナビゲーションへの基礎技術」であり、「医学教育システムや手術手技の訓練システム」に役立つとある。さらにこのメッセージには「この分野の究極の到達目標は、かつてのハリウッド映画『ミクロの決死圏』の具現化」とも記されている。

手術シミュレーション、画像診断などで製品が登場

製品開発も進んでいる。例えば米オッソVR(Osso VR)は、シミュレーションによる外科手術トレーニングを可能にする製品を開発中。あたかも自分が手術室にいるかのような感覚で手術器具の使い方を教えてくれる(写真1)。画面に表示されるバーチャルな“手”は現実の手の動きと連動しており、高価な専用装置ではなく市販のVRキット(「HTC Vive」を採用)さえあれば、どこでも手術トレーニングができてしまう。

(写真1)米オッソVRはバーチャル手術室の仕組みを開発中
実際の手の動きが画面の手と連動する。(オッソVRのYoutube動画より抜粋)

2016年4月には、英メディカルリアリティ(Medical Realities)がロイヤルロンドン病院における70代がん患者の外科手術の様子を、患者の上部に設置した360度対応のカメラで撮影。ライブでストリーミング配信した(参考情報)。医学生たちは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、現場での手術手順や作法などを仮想的に体験した。執刀にあたった医師は英ガーディアン紙の取材に対し、「この手法は医療教育の革命だ」と答えている。

製品は他にもある。トレーニング用シミュレーション機器の大手であるカナダのCAEヘルスケアは、カナダ国立研究機関と共同で脳神経外科トレーニング機器の「NeuroVR」を開発し、販売している(写真2)。2008年から数々の実証を重ね、複雑な脳内の仕組みを仮想化することに成功した。

(写真2)NeuroVRの利用イメージ(CAEヘルスケアの紹介ページより)

米バイオフライトVR(Bioflight VR)は、VRを用いた画像診断プラットフォームを開発。精細な3D表示により、CTやMRIスキャン画像では見逃しやすい点をフォローする。医用画像診断の精度を向上させ、効率的な手術計画に役立てられるとしている。