新型コロナウイルス感染症の拡大以降、現実社会での暴言、ネット上での誹謗中傷が相次ぐ。一体、どうしてここまで怒りの炎が燃え上がるようになってしまったのか。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者である一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事の安藤俊介氏が、その背景を読み解く。

怒りの構図はライターと同じ

不足するマスクやトイレットペーパーを巡っての店員への暴言、感染者に対する差別的発言、SNSでのデマや中傷……。新型コロナウイルスの感染拡大以降、世の中には「怒り」が蔓延している。最もヒートアップしたのは2020年の春先だが、今も火種はくすぶり続ける。

例えば2020年7月下旬に初の感染者が発覚した岩手県では、感染した男性が勤務する企業に苦情や批判の電話、メールが殺到。岩手県知事の達増拓也氏は「感染は悪ではない。中傷は犯罪に当たる場合もあり、鬼になる必要性もあるかもしれない」と危機感をあらわにした。8月には、クラスターが発生した沖縄県宜野座村のかんな病院の送迎バスがバス停に停車中、運転手が住民から「感染するからここに停めるな」との暴言を吐かれたことが明らかになった。

他方ではテレワークの浸透により、家庭内のギスギスが深刻化。テレワークはワークライフバランス実現のためのバラ色の解決策と見られていたが、生活と仕事のスイッチの切り替えがうまくいかず、家事の分担を巡ってイライラしたり、それがもとで配偶者や子どもに当たってしまったりなどの衝突も聞こえてくる。また、オンラインでの円滑なコミュニケーションが取れず、上司や同僚との関係にストレスを感じてしまうことも珍しくない。

なぜここまで人びとは怒りっぽくなったのか。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事の安藤俊介氏に、新型コロナ感染拡大における怒りの背景や、テレワークで浮き彫りになった課題などについて聞いた。

テレワークではイライラも噴出(出所:Adobe Stock)
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――そもそもアンガーマネジメントとはどのようなものでしょうか。

1970年代に米国で始まったとされる、怒りの感情と上手に向き合うための心理トレーニングです。かつて私は、怒りの感情に対してコンプレックスを抱えていました。しかし米国のニューヨークで働いているときにアンガーマネジメントと出会って救われたのです。その後、現地でメソッドを学び、日本でも広めようと2011年に協会を設立しました。

――協会への新型コロナ以降の問い合わせは増えていますか?

確実に増えています。怒りの感情はライターをイメージするとわかりやすい。炎が怒りだとすると、燃やすためには2つのアクションが必要になります。1つめが火花を散らすこと。もう1つが散った火花にガスを送ることです。

怒りの火花は「〜するべき」との思いが裏切られたときに発生します。例えば「マスクをするべき」なのにしていない人がいたら、イラッとします。「外出を自粛するべき」なのに外出している人を見たら腹が立つわけです。

ですが、火花が散ってもガスがなければ燃え上がりません。ガスの源はマイナスな感情や状態です。マイナスな感情は不安、辛さ、苦しみなどで、マイナスな状態は疲れ、寝不足、ストレスなど体の不調を指します。コロナ禍では、このガスが極端に大きくなった。ニューノーマルに慣れなさいというストレス、それに先が見えない不安が急に襲いかかってきたからです。これにより、今まで以上に怒りが激しく燃えるようになりました。

――具体的な相談内容は。

困惑している人が多い印象です。これまでは何とも思わなかったのに、なぜこんなに自分は怒るのか、私ってこんなに怒りっぽかったっけ?と。テレワークで家族といる時間が増えたため、「あれ、なぜこんなに家族にイライラするんだろう?」「もしかしたら子どもに手を上げてしまうのではないか?」といった相談が急増しています。

在宅時間が長くなり、日常と仕事が切り離せなくなってきていることも原因でしょう。本来ならば、無理にでも時間を切り分ける努力をしたほうがいい。協会スタッフも基本的に4月から在宅勤務に切り替えましたが、結果的に残業が増えてしまったので強制的に働かせないようにする仕組みを導入しています。企業としても、新たな生活習慣の変化に取り組んでほしいと思います。

――行き過ぎたSNSの炎上についてはどう思いますか?

炎上させるのは、正しさの限度がわからない人たちです。その認識が欠けているから正義が度を超えて暴力になる。その私憤を公憤という共感に転換できれば、世の中を良い方向に動かすこともできるのですが。

もう1つ、孤独も大きな要素です。ここで言う孤独とは、他者に受け入れられていない人ではなく、自分で自分を受け入れていない人。「自分はこんなはずじゃない」との思いによって怒りを突き動かしている人です。

ライター理論で言えば、ガスが非常に大きい人になります。その怒りを自分の手で持て余してしまうので、他者に対して自分の正義を振りかざしながら一方的に怒る。SNSで知らない人に噛み付いてくる人は同じ傾向にあります。私も攻撃されたことがあるのでよくわかります。