2020年12月から、ヘルステックベンチャーのCureApp(キュア・アップ)が提供する「治療アプリ」に公的医療保険が適用される。医師が「処方」する治療用のアプリとしては国内初の事例である。口火を切ったのは禁煙外来の治療アプリだが、CureAppでは後続のプロダクトを次々と開発中だ。いよいよ見えてきた「アプリで治療する世界」を、同社の最高医療責任者に聞いた。

日常に寄り添う「治療アプリ」が禁煙を支援

2020年11月11日、CureAppによる「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」(以下、CureApp SC)が中央社会保険医療協議会の了承を受け、同年12月1日から保険収載されることになった。治療用のアプリとしては国内初、禁煙治療に限れば世界初であり、ヘルステック界隈ではエポックメイキングな出来事として話題を呼んだ。

CureApp SCは禁煙外来で治療を受ける患者を対象に、院外での禁煙を支援するアプリ。医師から処方する医療機器の位置づけで、管理医療機器(クラスII)のカテゴリーに属する。具体的には医師用アプリ、患者用アプリ、コンパクトなデバイスのCOチェッカーの3つがセットになった形で提供される。

「治療アプリ」として薬事承認を受けたCureApp SC(出所:CureApp)
[画像のクリックで拡大表示]

従来の禁煙外来では、クリニックや病院外における精神的な部分での禁煙対策が難しいことが課題となってきた。CureApp SCは日常生活の中で患者が禁煙と向き合いながら、アプリによって身体データや心理的状況を可視化し、ニコチン依存症からの脱却をフォローするものとして開発した。

COチェッカーの計測値はデバイスとアプリが連動して自動で表示される(出所:CureApp)
[画像のクリックで拡大表示]

CureApp SCの使い方はこうだ。最初にアプリ内の問診票に1日あたりの喫煙本数、吸いたくなる時間帯などを入力し、この内容を基本として患者の治療方針を定める。アプリにはCOチェッカーによって計測した呼気一酸化炭素濃度がBluetooth接続で自動入力され、カラフルなグラフで表示される。ppmの数値が低ければ喫煙していない状態となり、禁煙の動機づけに役立つ。通常、COチェッカーは院内にのみ置かれる機器だが、これを院外で利用できるようにしたこともCureApp SCの特徴だ。

モチベーションを維持するためのさまざまな仕掛けも用意する。毎日の体調を記録し、その内容に応じてチャットボットによる回答や励ましの言葉が送信される機能がある。さらに医学的知見に基づく動画を活用した教育プログラムを配信。本プログラムを受けることで「ニコチン依存症は病気である」ことを学び、治療を後押しする。

現役の医師であるCureApp 最高医療責任者(CMO)の谷川朋幸氏は「いわゆるヘルスケアアプリとの違いは大きく3点ある」とする。1つめが特定の疾患を対象にしていること、2つめが厳密な治験を経てアプリによる疾患への有効性を実証していること、3つめが必ず医師が処方するものであることだ。「薬事承認を得るには二重、三重の壁を超えなくてはならない。対象の疾患に対する知見をアルゴリズム化して適用したものが当社の治療アプリと言える」(谷川氏)。

体調やCOの数値、禁煙状況を一覧で記録(左)。チャットボットでは励ましの言葉も(中)。医学的知見に基づいた受講用のプログラム(右)(出所:CureApp)
[画像のクリックで拡大表示]

医師からの反応も上々で、「問い合わせも多く、非常に価値のあるイノベーションとして捉えていただいている」と谷川氏は言う。プライマリーケアに深く関わる禁煙外来は市中のクリニックも多く、禁煙補助薬とセットでの大規模な展開も見込める。

CureAppで最高医療責任者を務める谷川氏(写真:小口正貴)
[画像のクリックで拡大表示]

「創業者や私を含め、CureAppにはフルタイムで関わっている医師が合計4人在籍している。その医学的な知見を反映し、ハードウエアではなく情報によって患者の認知や行動に働きかけ、健康水準の改善につなげるアプローチを採用する。会社のビジョンは“アプリで治療する未来を創造する”というもの。患者の健康に資する部分で、ソフトウエアだからこそできることがあると信じている」(谷川氏)