慢性的な人材不足に悩む病理医。スタートアップのメドメインは、限られた病理医のリソースをITによって支援する。武器はAI(人工知能)の病理診断支援機能とプレパラート(ガラス標本)のデジタル化だ。全国の主要大学も協力するサービスの内容について聞いた。

病理医は10万人あたりわずか2人、圧倒的に人が足りない

女優の芦田愛菜さんが将来の夢として語ったことで一躍脚光を浴びた病理医。患者の体内から採取した病変の組織や細胞を顕微鏡で病理診断し、適切な治療の方針を支える。普段、患者と接することがないために身近な存在ではないが、医療に対する貢献度は非常に高い。日本病理学会では「病理医のつよみは、何と言っても、『病気の総合的判断が可能な医師である』点」と表している。これがドクターオブドクターズと言われるゆえんである。

しかし、圧倒的に人数が不足している。日本における最新の病理医の数は2620人(2020年11月2日時点、日本病理学会報告)で、人口10万人あたり約2人。しかもほかの診療科と同様に都市部への集中が激しく、地域偏在の現状がある。

福岡市に拠点を置くメドメインは、病理医の診断をデジタル化でサポートするスタートアップである。代表取締役CEOを務める飯塚統氏は九州大学医学部医学科在学中の2018年にメドメインを創業し、病理AI解析ソリューション「PidPort」を九州大学、広島大学、順天堂大学、国際医療福祉大学などと連携して開発してきた。現在の状況と今後の展望について、飯塚氏に話を聞いた。

メドメイン代表取締役CEOの飯塚統氏(出所:メドメイン)
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――病理医を助けるシステムを作ろうと思った経緯は。

もともと私自身が、持病の腎臓病の治療のために長期入院する中で医療への貢献を志し、研究医をめざして九州大学医学部に入ったことが影響している。実体験として、私自身、病理診断を受けたこともある。病理医に馴染みのない人も多いと思うが、病理診断があってこそ内科や外科の先生の治療や手術の方針が決まる。術後であればきちんとがんや腫瘍が切除できているかを判断する。言わば医療現場にとって欠かせない縁の下の力持ちだ。一方で、病理医は慢性的な不足に悩んでいる。

例えば、近くの病院で診察してもらったときにがんの疑いがあり、治療や手術がすぐに必要な状況であっても、本当にがん細胞があるかを確定しなければならない。この確定を担当するのが病理医だが、病理医が在籍するのは中・大規模の医療機関に限定されるため、小規模の施設では外注が基本になる。ただでさえ少ない病理医のもとには常に診断依頼が蓄積しているため、患者に結果がわかるまでに長い時間を要し、日本だと常勤の病理医がいる場合でおよそ1週間弱、外注に出した場合は1〜3週間かかる。患者としては精神的な負担だけではなく、がんであればその間に病状が進行するリスクもある。何とかして双方のペインを解消できないか。その思いから、PidPortの開発に着手した。

――そのまま研究医の道に進まず、なぜヘルステックスタートアップを起業したのか。

ITの力で医療現場の支援、効率化を図り、少しでも現状を変えたいからだ。昔からプログラミングに興味があり、医学部の数理医学研究会に所属してプログラミングのスキルを鍛え、医療ソフトを開発した。そのとき、自分たちが作った医療ソフトでさえ、医療現場で解決できる課題が山ほどあることに気づいた。当時のソフト開発のプロジェクトがメドメインの源流となっている。

当初は画像処理から診断報告書の作成まで雑多に機能を盛り込んだ“何でもできる”プロトタイプを作成したが、逆に狙いが絞り込めておらずうまくいかなかった。だがその中に、動画上で動く細胞を追跡するトラッキング機能があり、それを見た医学部の教授が「この機能は病理領域でのAI自動診断に使えるのではないか」とアドバイスしてくれた。そこから突き詰めて現場で利用できるレベルに磨き上げてきたプロダクトがPidPortだ。これをきちんと社会に実装して継続的に運営していくためにはスタートアップが最適だった。

――PidPortの機能について教えてほしい。

AI解析と遠隔病理診断の機能を組み合わせたSaaS型のクラウドシステムになる。ブラウザ上で利用できる点が特徴だ。ディープラーニングを活用したAIによって、組織や細胞を瞬時にスクリーニングできる。かなり早い段階から画像認識に強いディープラーニングに着目して開発を進めてきたこともあり、この領域における開発には強く、精度の高さには自信がある。

PidPortで胃の生検標本の症例に対してAIが解析を行なった際の画像(出所:メドメイン)
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日本では法規制の問題でまだAIが診断を下すことはできない。現段階では先行して法規制上問題のない海外で提供を開始している。現在の主な用途はスクリーニングによる診断支援であり、病理医が診る前に異常な部分を洗い出すことや、病理医の見落としがないことを確認することが目的。今後さらに、検出項目を含めてブラッシュアップを図り、将来的にはAIにしかできない価値を提供していくつもりだ。

遠隔病理診断やコンサルテーションの機能は、AI機能と相互に補完するものとして提供している。クラウドで画像データやAIが解析した結果を共有し、リモートにいる病理医に意見やアドバイスを聞いたりできる。この解決策により、病理医を支援するとともに、病理診断のための一連のフローに要している時間を短縮する取り組みを行なっている。