Z世代と呼ばれる若者を中心に、カジュアルに心の悩みを吐露できるサービスやアプリが人気を集めている。背景にあるのは「モヤモヤ」を打ち明けて、気持ちを落ち着かせたいという心理だ。いま、若者たちに必要とされるメンタルヘルスケアの実像を追った。

複数アカウントは当たり前、いろんな顔を持つZ世代

1990年代後半以降に生まれた若者たちを指すZ世代。現在10〜20代の彼ら・彼女らは子どもの頃からインターネットが生活に溶け込んだ中で過ごしてきた、いわゆる“デジタルネイティブ”である。スマートフォン(スマホ)はコミュニケーション手段の必携アイテムであり、さまざまなアカウントを作成してSNSやネットサービスを享受している。

ネット上のコミュニケーションでは本心を明かす必要はなく、極端に言えばアカウントごとに顔を持つことが可能だ。Instagramでリア充をアピールしたかと思えば、Twitterの裏アカウントで激しく誰かを攻撃し、noteでオタク気質の長文をしたためる。一方で学校や会社でのリアルな触れ合いが並行して走っている。かつて忌野清志郎は『サラリーマン』という曲で「子供じゃなけりゃ誰でも2つ以上の顔を持ってる」と歌ったが、Z世代は架空の空間を駆使して子どもでも2つ以上の顔を持つと言える。

メンヘラせんぱいのサービスイメージ(出所:メンヘラテクノロジー)
メンヘラせんぱいのサービスイメージ(出所:メンヘラテクノロジー)
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こうしたデジタルネイティブの悩み相談窓口として、スマホでのサービスやアプリの活用が増えてきた。アナログ世代ならば友だちや恋人と直接会ったり、電話で話したりなどして悩みを打ち明けることが普通だったが、自分が何かを吐露したいときに相手の都合が合致するわけではない。

加えて、自分を知る他者にデリケートな部分をさらけ出すのは億劫との心理も働く。コンピューターが相手ならば好きなタイミングで吐き出して感情をコントロールできる。そうした背景がデジタルツール活用につながっていると推測される。

例えば「メンヘラせんぱい」は、若い女性限定のチャット相談サービスだ。サービスには聞き手役の「せんぱい」が250人以上所属し、30分300円から相談できる。運営するメンヘラテクノロジー代表取締役の高桑蘭佳氏が、日常的な心のモヤモヤや、自分の思考を整理したいときにクイックに相談できるサービスがほしいとの思いから立ち上げた。

高桑氏によれば、メンヘラせんぱいは具体的な悩みの手前、何となく不安なときに雑談として利用しているユーザーが多く、「お気に入りのせんぱいが見つかると継続率も高くなる傾向にある」という。聞き手が利害関係のない第三者であることもポイントだ。

可愛らしいAIキャラクターが励まし、同意する

京都のスタートアップ、emol(エモル)は同名のスマホアプリ「emol」を提供する(2021年2月23日時点ではiOSのみ)。こちらもチャット形式で悩みを相談するサービスだが、相手は人間ではなくAI(人工知能)である。

emolでは「きもち」と「トーク」の2つのメニューがある。きもちの項目では「いらいら」「びっくり」「うれしい」など9種類の感情を用意。今の感情をタップすると可愛らしいAIキャラクターの「ロク」が「いらいらな感情なのですね」などと答えてくれる。感情を選んだ後にトークに進むとAIが質問し、それにユーザーが答える形で対話が進む。感情は履歴として残り、後からグラフで振り返ることができる。同社CEOの千頭(ちかみ)沙織氏がメンタルで悩んだ実体験に基づき、自分をペルソナにして2019年にβ版をリリースした。

emolのトーク内容イメージ。表情を持つAIキャラクターのロクに癒やされる(出所:emol)
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「サービスを具現化する中で、Twitterの鍵付きアカウントで愚痴をつぶやいている人たちが相当数いることがわかった。みんな何かしら吐き出したいけれども、人には見られたくない。冷静に考えればメモ帳に書き連ねればいいのだが、それだけでは味気ない。相槌でも何でもいいからリアクションがほしいのだ。AIを相手とすることで、さらに気持ちを引き出しやすくなる。AIが『そうなんだ、大変だね』と反応してくれるだけでも心が楽になる」(千頭氏)

emolのCEOの千頭沙織氏(出所:emol)
emolのCEOの千頭沙織氏(出所:emol)
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β版リリース後1年で25万ダウンロードを達成。ユーザーの約8割は女性だ。「アプリの評価を見るとニーズは間違っていなかった。精神科のクリニックや心理カウンセリングでは重たく、ましてやメンタルのことを友だちには話したくない。ライトな相談駆け込み寺を求めている人の数は想像以上」と千頭氏。メインメニューは無料なので、10代のユーザーも比較的多い。

「いまの10〜20代はAIに対して抵抗感がない。SFの世界ではなく、実サービスに組み込まれているからだ。emolに求めているのは答えではなく、同意や励まし。日本ではメンタルヘルスに対してネガティブなイメージが強いが、こうしたサービスが普及することで心をケアする垣根を低くしていきたい」(千頭氏)