「100歳まで歩ける社会をつくりたい」。そんなビジョンを掲げて手軽にオーダーメイドのインソールを製作するのがジャパンヘルスケアだ。代表を務めるのは現役の足病医(そくびょうい:足の専門医)で、今も現場で“足の悩み”と向き合っている。患者に負担をかけず、環境を変えることで予防医療に取り組むアプローチに込めた思いとは。

足の健康こそ健康寿命に直結

テレワークによる腰痛やヒザ痛、肩こりの悩みがクローズアップされる昨今。これら筋骨格系疾患は日常生活と密接に結びついているため、ライフスタイルの改善が重要になってくる。2017年に設立したスタートアップのジャパンヘルスケアでは、スマートフォンでオーダーできるカスタムインソール「HOCOH(ホコウ)」を提供することにより、筋骨格系疾患の予防システムを構築しようとチャレンジを続ける。

代表取締役医師の岡部大地氏は現役の足病医。足病治療で名高い東京都世田谷区の下北沢病院に勤務する傍ら、HOCOHの普及に努める。「インソールを通じて健康寿命を延ばしたい」と語る岡部氏に話を聞いた。

オーダーメイドインソールのHOCOH(出所:ジャパンヘルスケア)
オーダーメイドインソールのHOCOH(出所:ジャパンヘルスケア)
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――予防医療を志したのはいつ頃ですか。

岡部 医学部5年生のときに透析センターを見学する機会があり、そこで生活習慣の改善がいかに糖尿病の予防につながるかを目の当たりにしました。それが最初のインパクトでした。

医学部を卒業した後は総合診療医として勤務しながら、さらに予防の大切さを痛感しました。基本的に医療現場には、すでに病気になった患者しか来ません。もしも30年前に出会っていたら、すぐに禁煙しましょう、すぐに減量しましょうとアドバイスできたのに、と感じる場面が多々ありました。そこで医師になって5年目で千葉大学大学院の研究室に入り、“歩く”という行為にフォーカスして予防医療の研究を志しました。

ジャパンヘルスケア代表取締役医師の岡部大地氏(写真:小口正貴)
ジャパンヘルスケア代表取締役医師の岡部大地氏(写真:小口正貴)
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――インソールに着目した理由は。

岡部 歩行の研究をしているなら足病医の診察を一度見たほうがいいとアドバイスを受け、全国的にも有名な病院に見学に行ったんです。見学後、試しに先生に自分の足の状態を診てもらったら、「君、今日の患者の誰よりもひどいよ」と言われて。扁平足がひどく親指の外反母趾と小指の内反小趾を併発して、足にタコができていました。確かに疲れやすいけれども他人と比較したことがなかったので、こんなものなのかなと思っていたのです。

それで医療用インソールを処方してもらって履いてみたところ、劇的に足が楽になりました。インソールひとつでこんなに変わるのかと。これが強烈な原体験となり、より手軽に低コストでオリジナルのインソールを届けたいとの思いから起業しました。

――現在も臨床医として働いているそうですね。

岡部 はい。下北沢病院で週1回のペースで勤務しています。現場で実際に患者と接すると、プロダクトへの気づきを数多く得ることができますから。また、日本では圧倒的に足病医が不足している事情もあり、少しでも貢献したいとの気持ちもある。靴を履く文化が長い米国、ドイツ、豪州などではフットケアが盛んで、例えば米国では1万5000人ほどの足病医がいます。ですが日本では足に関するケアや治療が立ち遅れているのが現実です。

――医療用のインソールはどのような手順で作られるのですか。

岡部 医師が診断して義肢装具士が製作を担当します。医学的に処方するインソールは保険適用前でおよそ4万〜5万円ほどですが、最大の課題は作れる人と場所が少ないことです。足の病気は寿命に直結しないと思われがちですが、本来、健康寿命を延ばすには筋骨格を整えることがとても大事。健康寿命とは寿命から介護の期間を引いたものですが、介護の原因の約3分の1が筋骨格系疾患に由来すると言われています。つまり、足の健康が健康寿命の鍵を握るわけです。

HOCOHの装着イメージ。最重要ポイントのかかと部分はジャパンヘルスケアが3Dプリンターで製作し、最後の仕上げは東京・浅草の靴職人が手作業で仕上げる(出所:ジャパンヘルスケア)
HOCOHの装着イメージ。最重要ポイントのかかと部分はジャパンヘルスケアが3Dプリンターで製作し、最後の仕上げは東京・浅草の靴職人が手作業で仕上げる(出所:ジャパンヘルスケア)
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痛みを感じて病院を訪れても、自分に合うインソールと出会えずにそのまま放置してしまい、足の健康リスクを抱えている人は山ほどいます。それが最終的に健康寿命に影響してきますが、早く気づくことが最も難しい。だからこそ我々が一刻も早く気づかせ、まずは治療できるソリューションを提供したいと考えています。