医療の世界でテクノロジーの導入が加速している。背景には今後の医療を支える5G、クラウド、AI(人工知能)が成熟してきたことが挙げられる。遠隔医療や新型コロナ対策を支援する巨大ITプレーヤーたちの姿を追った。

通信事業者が進出する5G×医療

日本で2020年春から商用化された第5世代移動通信システム(5G)。消費者レベルではまだ恩恵を実感できないものの、対応するスマートフォンが増えてきたこともあり、徐々に生活の中に浸透しつつある。

高速・大容量、低遅延、多端末接続を実現する5Gは、一般的なユースケースに先駆けてパブリックな社会インフラとしての実証が先行している。自動運転、産業のIoT促進、スマートシティなどさまざまな用途があるが、中でも医療への活用には大きな期待が集まる。

ニーズが高いのは、オンラインを必須とする遠隔医療の分野だ。移動体通信事業者の国内トップランナーであるNTTドコモは最も意欲的で、続々と医療×5Gの実証に挑んでいる。2021年4月には、神戸大学、メディカロイド、神戸市と共同で5Gを介した手術支援ロボットの遠隔操作実証を開始した。

本実証では、メディカロイドが開発する国産初の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」を採用。神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センター(ICCRC)と、隣接する統合型研究開発・創出拠点(MeDIP)の2拠点間で遠隔操作の模擬手術を成功させた。これは、世界初の事例となる。

ICCRC側で遠隔操作している様子(出所:神戸市記者発表資料)
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MeDIP側で模擬手術をしている様子(出所:神戸市記者発表資料)* 手術動画URL:ドコモ公式YouTube  https://youtu.be/mSRq6qksLqA
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デモ動画ではほぼリアルタイムで遅延なく手術支援を行なう様子が公開され、5Gとロボットの二人三脚による遠隔医療の可能性を感じさせた。狙いは熟練医師が不足する地方における外科医療の改善だ。さらに、若手医師を対象とした外科手術のトレーニングや遠隔支援なども視野に入れる。実用化に向け、4者は今後も実証を重ねていく。

同じくドコモが東京女子医科大学と進めているのが「モバイルSCOT」。東京女子医大やデンソーらが開発したネットワーク治療システム「Smart Cyber Operating Theater」をトラックに搭載した“走るスマート手術室”がコンセプトである。高度にIoT化されたモバイルSCOTと病院に置いた戦略デスクを5Gで結び、医師同士が相互にリアルタイムで情報をやり取りしながら遠隔手術を支援する。

地域による医療格差の是正はもちろんのこと、災害時の緊急対応も想定。2020〜21年にかけて実証を行ない、執刀医の手元映像や4K外視鏡の高精細映像などを伝送して実現性を検証した。モバイルSCOTの構想はすでに2018年から動き始めており、早期の社会実装が待たれるところだ。

2020年9月には、医療向け3Dプログラムを提供するベンチャーのHoloeyesと業務提携。同社の「Holoeyes MD」とドコモが販売するXR(VR、AR、MRの総称)デバイスの「Magic Leap 1」を組み合わせ、医療機関に提供することを明らかにした。Holoeyes MDはCT(コンピュータ断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)などの医療画像を精緻に三次元化するプログラムで、術前シミュレーションや医学生の教育用ツールとして利用されており、情報通信技術の1つに5Gを役立てる。

未来を感じさせるMagic Leap 1とHoloeyes MDを組み合わせたイメージ(出所:Holoeyes)
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ソフトバンクも遠隔医療への5G活用に意欲を見せる。2021年3月には、AIメディカルサービスとともに、5Gによる内視鏡検査画像の伝送実証を行なった。内視鏡専門医の検証結果によれば、4Gで発生する映像の乱れがなく、5Gでは微細な血管やポリープも鮮明で確認しやすいとの手応えを得たという。ソフトバンクではAI画像解析ソリューションとの連携による遠隔診断補助システムの提供を目指す。