新型コロナを受け米国の巨人たちが機敏に行動

膨大なデータの処理基盤となるクラウドサービス事業者も負けてはいない。米マイクロソフトは2020年5月に「Microsoft Cloud for Healthcare」の提供を開始。新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)のパンデミックを受け、逼迫した状況に追い込まれた医療業界のデジタル化を推進するのが目的だ。同社にとって特定業界向けのクラウドサービス提供はこれが初であり、力の入れようがうかがえる。

例えばビデオ会議ツールの「Microsoft Teams」を医療関係者用にカスタマイズし、電子カルテへの接続や円滑なオンライン診療をサポート。加えて緊急時の情報伝達や画像を含む患者情報の引き継ぎなどを強化し、セキュアな環境で医療チームのコラボレーションを最適化するとしている。

2021年1月にはチャットボットサービスの「Azure Health Bot」の提供を開始。従来、「Microsoft Healthcare Bot」として提供してきた機能を進化させたもので、コロナウイルス感染の疑いがある患者のトリアージ(緊急度に応じた優先順位)ボット、メンタルヘルス関連ボットなどの医療テンプレートを用意した。

Azure Health Botの概要(出所:米マイクロソフト)
Azure Health Botの概要(出所:米マイクロソフト)
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クラウドサービスのもう1つの雄である米アマゾンが2020年11月に米国で始めたのが「Amazon Pharmacy」。処方薬をオンライン販売するもので、買収した新興企業の技術を活用した。家にいながら手軽に処方薬を入手できるとあって、リアルで展開するドラッグストアに衝撃を与えている。また、これまで自社の一部従業員に展開していたオンライン医療相談サービス「Amazon Care」を2021年夏までに全米50州に拡大し、他社にも提供すると発表。マイクロソフトとは違った形で医療へのアプローチを図る。

最後に、AIの頭脳となる半導体メーカーの動きを紹介しよう。もはやAIに不可欠となったGPU(画像処理半導体)を供給する米NVIDIAは、医療AIプラットフォーム「NVIDIA Clara」で攻勢をかける。医用画像処理ツールの「Clara Imaging」はすでに口腔がん早期発見の開発やCOVID-19の重症化予測などで共同研究が進んでおり、ゲノムデータ解析ソフトの「Clara Parabricks」は東京大学医科学研究所のスーパーコンピューター「SHIROKANE」に導入済みだ。

スパコンのSHIROKANEにはGPU環境の強化としてNVIDIA DGX A100サーバーも導入された(出所:NVIDIA)
スパコンのSHIROKANEにはGPU環境の強化としてNVIDIA DGX A100サーバーも導入された(出所:NVIDIA)
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CPU(中央演算処理装置)最大手の米インテルは2020年4月、COVID-19の感染拡大防止に資する技術を支援する「PRTI(Pandemic Response Technology Initiative)」を開始し、これまでに5000 万ドル(約54億円)を拠出した。1年が経過した2021年4月の段階では170の組織、230のプロジェクトに輪が広がっている。具体的にはCTやX線装置にAIを組み込んだ感染有無の判別、研究プロジェクトへのハイパフォーマンス・コンピューティング (HPC)提供などになる。独のベルリン医学研究所(Berlin Institute of Health)では、HPCの構築により新型コロナウイルスの作動メカニズムを解明する成果を生んだ。

このようにCOVID-19が引き起こした急激な変化は、テレワークをはじめとする社会生活のみならず医療の世界でもデジタル化の時計の針を一気に進めた。5G、クラウド、AIは不可分な関係であり、それぞれが切磋琢磨しながら進化していくものだ。労働集約型を代表する医療業界に、テクノロジーがパラダイムシフトを起こす日もそう遠くはないだろう。