スタートアップのvivola(ビボラ)が不妊治療データ検索アプリ「cocoromi(ココロミ)」をリリースした。人の生命を授かる繊細な治療を、医学的見地に基づいたデータと当事者のコミュニティ機能から支援するサービスだ。vivolaの代表自身が不妊治療を通じて感じた課題が出発点となっている。

約5.5組に1組が不妊の検査や治療を経験

「2015年社会保障・人口問題基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある、または現在受けている夫婦は全体で18.2%、子どものいない夫婦では28.2%だという。これは夫婦全体の約5.5組に1組の割合であり、いかに不妊に悩む人たちが多いかを示す数字でもある。

2021年4月、不妊治療データ検索アプリ、cocoromi(ココロミ)がリリースされた。提供元であるvivola(ビボラ)代表取締役の角田夕香里氏は、不妊治療を継続中の当事者。長年の治療で感じた「定量的なデータエビデンスへのアクセシビリティ」の改善を図るためにcocoromiを開発した。アプリの内容と不妊治療を取り巻く“2021年のリアル”について、角田氏に聞いた。

――cocoromiとはどのようなサービスなのでしょうか。

角田 3つの大きな特徴があります。1つめは治療内容のログ機能です。不妊治療は、ホルモン検査や超音波エコーのため、多いときだと週に3回も通院を余儀なくされます。そこでGoogleカレンダーと連携して通院スケジュールを把握し、測定した女性ホルモンの値を患者自らが記録できるようにしました。

女性ホルモンの内訳は、卵胞ホルモン(エストロゲン、E2)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、黄体ホルモン(プロゲステロン、P4)の4種類。この数値と超音波エコーによる卵胞径の計測結果を見ながら排卵誘発のホルモン剤投与を行なったり、排卵のタイミングを予測したりします。卵胞は18〜22mmになると排卵するといわれていますが、ホルモン剤の反応や卵胞の成長には個人差があるので、細かく観察するためにどうしても通院頻度が高くなってしまいます。

これまで、患者は手帳やノートにこれらの治療ログを記録していました。しかしcocoromiのログ機能によってどのような治療を行ない、どのようにホルモン値が変化したかを治療サマリとして一覧表示できるようになりました。また不妊治療の特性として転院が多いことが挙げられますが、デジタル化した治療サマリがあれば次の病院・クリニックの医師にとっても、どんな治療をしてきたのかが一目瞭然なので非常に役立ちます。

cocoromiの3つの特徴(出所:vivola)
cocoromiの3つの特徴(出所:vivola)
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2つめは、入力データをもとにした治療の統計・同質データの表示機能。統計データでは、体外受精成功者の割合を閲覧できます。同質データは、女性の年齢、AMH(抗ミュラー管ホルモン、卵巣の予備能)、男女を問わず妊孕性(にんようせい、妊娠する能力)に影響のある疾患――男性であれば無精子症など、女性であれば子宮内膜症や子宮筋腫など――の3つの観点から定義したもので、自分と似ている傾向の人を検索できます。

ただしこれらはあくまでも医学的に判明している同質性に過ぎません。私たちが目指しているのは、蓄積したデータからの新たな同質性の分析です。例えばホルモン剤に対する反応、LHが大量分泌されるLHサージ、E2の上昇カーブなどを詳細にデータ分析し、独自アルゴリズムによってより治療を受ける人との同質性を高めたいと考えています。

――データの精度はどうやって担保しているのでしょうか。

角田 国立成育医療研究センターで長く生殖医療に携わってきた齊藤英和先生に医療監修をお願いしています。先生からは、不妊治療のデータ分析で共通化されているものはないので、できる限り広く情報を収集したほうがいいとのアドバイスをいただいています。AI(人工知能)やデータ分析と聞いただけで拒否反応を示す先生も多い中、齊藤先生は生殖医療×AIにも未来を感じてくれていて、その柔軟さにはとても助けられています。加えて豊富な体外受精の経験を持つ胚培養士の川口優太郎先生にもさまざまな知見をいただくことで、医学的な見地からデータの精度を高めています。

――なるほど。では3つめの特徴は。

3つめは、不妊治療患者に向けた専用のSNS、それから病院検索機能です。同じ経験をした者同士だからこそ分かり合える、生の声を反映したコミュニティは欠かせないからです。既存のSNSではトピックがタイムラインで流れてしまい、途中から参加すると自分の知りたい情報にたどり着けません。さらに属性もさまざまなので、心無い投稿が混在してしまうことも多々あります。そこでカテゴリーごとに分けた悩み相談のトークルームを設けました。不妊治療をしている人たちに限定しているので、配慮のあるやり取りが成立しています。

vivolaの角田氏。ソニーの出身で、スティック型アロマディフューザー「AROMASTIC」の開発に携わった経歴を持つ(出所:vivola)
vivolaの角田氏。ソニーの出身で、スティック型アロマディフューザー「AROMASTIC」の開発に携わった経歴を持つ(出所:vivola)
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――定量的なデータと定性的なコミュニケーションのハイブリッド構造になっているわけですね。

角田 そうです。いろんな海外の疾患系サービスを参考にしましたが、そこから学んだのは、データの提供だけではなかなか患者のリテラシーが向上しないということ。不妊治療はリテラシーの高低差が激しい領域です。アプリに先駆けて2020年6月からWebサービスをβ版として運営しており、これまですでに1500人ほどに利用いただいていますが、その活動の中で改めてリテラシーの差を実感しています。

医学的にもまだブラックボックスの部分が多いため、先生によっては2時間半の事前説明会を経た上で治療に臨む場合もあります。その準備も時間がかかりますし、患者にとっては難しい医学用語や不妊治療のプロセスを理解するのも大変です。データだけでは補完できない実際の治療体験や治療にかかるコスト、パートナーとの話し合い方など、不妊治療にまつわる繊細な疑問に答える場は必須なのです。患者の治療への理解は、医療の現場でのコミュニケーションコストを下げ、診察においても本質的な治療の話が可能になるため、医師にとってもメリットがあると考えています。だからこそ、このアプリを使って一緒に啓蒙していきたいと思います。