保険適用はバラ色の解決策なのか? 職場の理解も高い壁に

――ユーザーからはどんな声が届いていますか。

角田 ご自身の年齢や妊孕性を踏まえ、自分と似たような人が体外受精でかかった期間を把握できるので、資金の概算、あるいは人工授精から体外受精へのステップアップの参考になったという意見を頂戴しています。

ですが、都市部と地方では悩みに大きな差があるのも事実です。東京都には体外受精を受けられる施設が100カ所以上あるのに対し、県によっては1カ所しかないところもあります。つまり、都市部ではまず治療方針や実績を鑑みて「最初にどの病院を選ぶか」からスタートしますが、地方ではそこで悩むことはないわけです。

しかしそれはインフラが整っていないことの裏返しですから、車での移動を含め丸一日かけて治療を受ける人たちは少なくありません。不育症など特異性のある検査が可能な施設も限られているため、セカンドオピニオンを受けるのに新幹線を使って都会の病院に来るケースもあり、拘束時間や交通費で相当な負担を強いられます。これは都市部にはない課題です。そこを上手くオンライン診療でカバーできないかと考え、次のサービスとして開発を進めています。

――そもそも体外受精とはどの程度の費用がかかるのでしょうか。

角田 2021年3月に厚生労働省が発表した調査結果では平均で約50万円ですが、これも都市部と地方では差が鮮明です。地方では30万円前後で済むところが、東京では50万〜100万円ほどが相場で、有名なクリニックでは100数十万円かかることもあります。ご存じのように不妊治療は自由診療ですから、治療内容によってこれだけの幅が出てきてしまうのです。

2021年1月からは所得制限を撤廃した上で、1回の体外受精および顕微授精につき30万円の助成金が支給されることになりました。現在は2022年4月をめどに不妊治療の保険適用に向けて動いており、2021年夏までに日本生殖医学会で基本方針がまとまる予定です。

ただ、先ほども話したようにブラックボックスの部分が多く治療内容も施設によって大きく変わるため、どこからどこまで保険が適用されるのか不透明な状況です。もしかしたら、日本では許可されていない混合診療(自由診療と保険診療のミックス)になるかもしれないとの憶測もある。いずれにしろ、症例数の多い病院や地方のクリニックの要望を反映し、現場に即した保険適用でないと難しいとの意見が散見されます。私たちもユーザーアンケートを通じて声を集め、患者のためになる制度の実現に向けて協力できればと思っています。

cocoromiの利用イメージ。データをもとにパートナーと話し合う機会も増える(出所:vivola)
cocoromiの利用イメージ。データをもとにパートナーと話し合う機会も増える(出所:vivola)
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――よく聞かれる課題として、不妊治療を行なう際の職場の理解の低さも挙げられます。

角田 おっしゃる通りです。「そんなにひんぱんに通院する理由はあるのか、本当はサボってるだけじゃないのか」。今でもそうした目で見られる患者は数多くいます。どれだけ治療が先進的になっても、働く女性にとって通院の負担は免れません。今後は、負担の少ない環境を構築していくことも重要になってきます。

そこで当社では、人事・マネジメント層に対する企業向けの啓発セミナーも開催しています。まずは当事者以外の人たちが不妊に関する理解を深めてもらうことが前提です。仕事と治療の両立に悩み、不妊治療を明かさないまま職場を去ってしまう30〜40代女性も多いのですが、それはすなわち脂が乗った人材の損失を意味します。NPOや医療従事者と協力しながらその点を上層部に訴求し、粘り強く啓蒙していくつもりです。

――女性ばかりがフォーカスされますが、不妊要因の半分は男性との報告もある。職場環境の改善も含め、解決すべき課題は多そうですね。

角田 はい。妊孕性のチェックをして自分に要因があると判明すると、女性よりも男性のほうが何倍もショックを受けるとの調査結果もあります。ただ、男性は良質な精子を選別する技術はかなり確立されているので、要因を明確にした上で夫婦間できちんと話し合いながら臨めばそれなりに対策がある場合も多いと思います。

当社のデータベースでは、体外受精に成功した人の平均治療期間は25カ月。成功率は30〜40%といわれており、身体のタイムリミットや資金的な面で卒業される人も多いのが現実です。人生100年時代でも、生殖のピークは昔から30歳前後と変わっていないのに、高齢出産が当たり前となってアラフォーでも間に合う風潮があるのは日本独特の課題だと感じています。一方では不妊治療の末に子どもを授かることが叶わず、燃え尽きてうつになってしまう人もたくさんいます。こうしたデリケートな問題をはらんでいる不妊治療を、データ分析による可視化と積極的な啓発によるリテラシー向上で支えていく――それが私たちのミッションです。