熊本県と鹿児島県を拠点にする医療機器スタートアップが、誕生以降200年以上も抜本的な技術革新がなかった聴診器を生まれ変わらせようとしている。研究開発をリードするのは現役の循環器内科医。遠隔聴診という武器とともに、“聴診器2.0”の世界を突き進む姿勢に迫った。

目指すは聴診器のイノベーション

大動脈弁狭窄症という病気がある。心臓にある4つの弁のうち、左心室と大動脈の間にある大動脈弁が狭くなる病気で、動脈硬化による加齢性変化、先天性2尖弁、リウマチ熱などが原因として挙げられる。主な症状としては胸の痛み、ふらつき、息切れや呼吸困難などが見られる。

日本に推定100万人いるとされるこの病気は、症状が出てからの平均生存期間がわずか3年と非常に予後が悪い。しかも自覚症状が出てからは重症化していることが多く、突然死の要因ともなる。近年では新たな治療法としてTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)の普及が進み、開胸手術以外の選択肢も出てきた。それゆえ、一刻も早い異常の発見が鍵を握る。

熊本県と鹿児島県を拠点にする医療機器スタートアップのAMIは、大動脈弁狭窄症の早期発見を支援する「超聴診器」の開発に取り組む。AMIでは、発明以降およそ200年も基本構造が変わらない聴診器にイノベーションをもたらそうと奮闘している。このアイデアは代表取締役CEO(最高経営責任者)で現役医師でもある小川晋平氏が、医療現場で大動脈弁狭窄症を発見する難しさを体験したことから生まれた。聴診器は今でも“医師の耳”が頼りであり、いくらプロであっても多忙な状況や自身のコンディションによって心音異常を聞き逃してしまうリスクがあるからだ。

AMI代表取締役CEOの小川晋平氏。熊本大学医学部を卒業した現役医師で、今も循環器内科医として定期的に臨床現場に立っている(出所:AMI、以下同)
AMI代表取締役CEOの小川晋平氏。熊本大学医学部を卒業した現役医師で、今も循環器内科医として定期的に臨床現場に立っている(出所:AMI、以下同)
[画像のクリックで拡大表示]

開発中の超聴診器は、正式名称を「心疾患診断アシスト機能付遠隔医療対応聴診器」という。心電図と心音を同時計測し、独自のアルゴリズムとデータ処理によって医師の正確かつ迅速な聴診をサポートする。ハードウエアの試作からソフトウエア/AI(人工知能)アルゴリズムの開発まで自社内で行なっているのも大きな特徴と言える。現在、全国各地の大学病院や医療機関と協力しながら臨床研究を実施しており、早期の社会実装を目指す。

開発中となる超聴診器のイメージ。前部のデバイスを胸に当てて音を取る
開発中となる超聴診器のイメージ。前部のデバイスを胸に当てて音を取る
[画像のクリックで拡大表示]