オンライン診療に明瞭な聴診をプラス

2020年10月には「第二種医療機器製造販売業」の業許可が与えられ、クラスI(一般医療機器)、クラスII(管理医療機器)の製造・販売が可能となった。2015年に小川氏がたった1人で起業したAMIは今では25人までスタッフが増加。医師や看護師をはじめとする医療従事者、ソフトとハード双方のエンジニアが集い、まさに「医工連携」を地で行く組織に成長した。中には心臓外科医を経てソフトエンジニアに転身した者や、総合家電メーカーで長く設計開発・商品企画に携わった者もいる。

取材に応えてくれたAMIの吉永氏
取材に応えてくれたAMIの吉永氏
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品質保証を司る吉永拓真氏も、医薬品・医療機器メーカーのニプロや鹿児島市の病院勤務を経て、2020年4月にAMIに参画した。AMIでは超聴診器の開発と並行して、遠隔聴診ビデオチャットシステム、そして予備健診実証事業の「クラウド健進®」を事業の核としている。このうち吉永氏は遠隔聴診のプロジェクトをメインに担当する。

「起業後の2016年、代表の小川は熊本地震の被災地をボランティアとして回った。そこで初めて高度な医療機器のない診療現場を経験し、遠隔でも質の高い医療が必要だと痛感したという。その実現に向けてオンライン診療に遠隔聴診を組み合わせた仕組みを提供しようと考えた」(吉永氏)

同社の遠隔聴診ビデオチャットシステムは、起業以来培ってきた心音や肺音など生体音の取得、送信、出力技術を応用し、音が壊れる前の生体音をグラフによって可視化して耳と目で把握できるため、離れていても正確な聴診を実現する。同時に、脈拍や新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)で注目された血中酸素飽和度(SpO2)の数値も送信。これにより、バイタルデータのリアルタイム確認を付加した高品質なオンライン診療が可能となる。

遠隔聴診ビデオチャットシステムの概要
遠隔聴診ビデオチャットシステムの概要
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オンライン診療の条件が緩和された2020年4月には、「COVID-19 遠隔聴診プロジェクト」を立ち上げ、システム一式を60セット無償配布。吉永氏は本プロジェクトのリーダーとして奔走した。同システムでは、すでに国内で製造・販売が許可された電子聴診器を採用している。システムに関わる技術は特許を取得済みで、政府国際広報事業において日本が誇るヘルステックイノベーションとして、日本政府から世界に向けて動画で紹介されたこともある。COVID-19の緊急プロジェクト後は熊本県水俣市、国保水俣市立総合医療センターと三者協定を結び、遠隔聴診を含む医療へのICT活用を検証する実証事業を行なった。

「水俣市の山間地域にある国保水俣市立総合医療センター附属久木野診療所で、看護師が患者をサポートし、遠隔から診療を行なった。オンライン診療が初めての高齢者が対象のため心配していたが、94%が画面越しでもいつもと変わらず先生と会話ができたと答えた。医師からの評判も良く、会話や表情だけでは伝わらない部分を明瞭な生体音と可視化でカバーできる安心感があるとの回答が多かった。今年もさまざまな実証を重ねて普及にはずみをつけたい」(吉永氏)

もう1つの柱であるクラウド健進®は、「AMI指先採血キット」とあわせたパッケージサービス。微量の血液を自己採血して専用検査センターに郵送し、遠隔聴診ビデオチャットシステムによって特定健診(メタボ健診)と同じ項目の検査をオンラインで受けられる。「2020年には水俣市の企業で約40人が実証した。結果を見てより踏み込んだ健診をしてもらうのが狙いだ」と吉永氏は説明する。

クラウド健進®の概要
クラウド健進®の概要
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いずれは超聴診器を遠隔聴診ビデオチャットシステムに融合し、すべてを垂直統合で展開するのがAMIのゴールだ。全国の臨床研究から膨大なデータを集め、それをもとに開発したAIを超聴診器に搭載することも視野に入れている。「現段階でも心疾患のスクリーニングにはかなり有用だが、最終的には自動診断を支援するアルゴリズムを完成させることが目標。小川の志に共感して研究に協力してくれる医師が多数いるのも心強い」と吉永氏は話す。

鹿児島県は全国でも有数の離島県だけに、遠隔からの医療実証には事欠かない環境がそろっている。聴診を伴ったオンライン診療の優位性が確立されれば、日本全国、ひいては海外への拡大も夢ではないだろう。