京都大学の山中伸弥教授が2006年に世界で初めて作製に成功したiPS細胞。iPS細胞とは人工多能性幹細胞のことで、さまざまな組織や臓器の細胞に分化して増殖する能力を持つ。この能力を応用して、再生医療は次のステージへと進みつつある。

あれから10年。iPS細胞は私たちの生活にとってどれだけ身近なものになったか。例えば大日本住友製薬は、ベンチャー企業のヘリオスと共同で眼の難病である「加齢黄斑変性」に対してiPS細胞による再生医療に取り組んでいる。早ければ数年後には薬事承認される見込みである。ほかにも、iPS細胞を活用する動きはあちらこちらで進んでいる(表1)。こうした動きから考えると、iPS細胞を活用した医療は、そう遠くない未来に現実のものになりそうだ。

理化学研究所 高橋政代プロジェクトリーダーら iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を世界で初めてヒトに移植
大阪大学 澤芳樹教授ら iPS細胞由来の心筋細胞シートを研究中
慶応大学 岡野栄之教授ら iPS細胞由来の神経前駆細胞を用いた脊髄損傷などの治療方法を研究中
京都大学 高橋淳教授ら iPS細胞由来細胞を用いたパーキンソン病などの治療方法を研究中
京都大学 山下潤教授ら iPS細胞由来細胞を用いた重症心不全治療方法を開発中
(表1)iPS細胞を活用した再生医療の現状

心臓に「細胞シート」を貼り付けて機能を活性化

2013年4月に設立されたiHeart Japanも、iPS細胞を活用した再生医療に取り組む企業の一つ。同社はiPS細胞を活用することで、“細胞医薬”という新たな分野を切り拓こうとしている。

同社は、京都大学iPS研究所(CiRA:サイラ)から技術移転を受け、重症心不全患者のための「心血管系細胞多層体」の開発を進めている。心不全とは心臓機能が低下した状態を指すが、中でも重症心不全に陥ると、人工補助心臓の利用や心臓移植といった対処が必要となる。

心血管系細胞多層体はiPS細胞から分化した心筋細胞、内皮細胞、壁細胞を混ぜ合わせてシート状にし、それを何重にも積層したものである。この細胞シートを重症心不全患者の心臓に直接貼り付けると、弱った心筋機能を改善できる可能性がある(図1)。心血管系細胞多層体は大きく2つの効果をもたらし得る。1つは細胞間の情報を伝達するシグナル物質であるサイトカインが細胞を活性化させ、傷んだ組織の修復を促してくれること。もう1つは心筋細胞が定着して、患者の心臓とともに拍動を続けることだ。

(図1)重症心不全患者のための細胞シート(出典:iHeart Japan)

細胞を生きたまま定着させる積層技術を発明したのはサイラの山下潤教授らのグループおよび京大再生医科学研究所の田畑泰彦教授らのグループ。両氏はともにiHeart Japanの科学顧問を務める。iHeart Japan代表取締役の角田健治氏は、これらアカデミアの協力もあることから、「早ければ2019年には心血管系細胞多層体の臨床試験を開始し、2021年頃には製造販売承認を取得できるのではないか」とみている(写真1)。

(写真1)iHeart Japan代表取締役の角田健治氏