「細胞を“医薬品”として提供する」未来の医療

似たタイプの製品としては、テルモが移植心筋シート「ハートシート」を販売している。ただ、これは患者自身の大腿直筋から採取した筋芽細胞を培養する、いわゆる「自家細胞」の再生医療。これに対してiHeart Japanの細胞シートは、ドナーから提供を受けた「他家細胞」を利用するもので、心筋シート型の再生医療発展のブレイクスルーとなる可能性がある。

自家細胞移植は拒絶反応のリスクが無いものの、患者それぞれに合わせた治療が求められるためどうしてもコストがかさむ。この点、他家細胞移植なら「同一ドナー由来の細胞加工品を大量生産できるため、複数の患者に移植できる」(角田氏)。そうなれば、より低いコストで重症心不全患者を助けられる。医薬品による治療に似た“細胞医薬”の考え方である。実際、同社は、このような医療の未来を考え、細胞医薬への取り組みを大きな事業テーマとして掲げている。

他家細胞を利用する細胞医薬では、iPS細胞のほかにES細胞(胚性幹細胞)、間葉系幹細胞(MSC)の研究が盛んである。ES細胞はiPS細胞と同じく多能性幹細胞であり、有用性は高い。ただ、ヒトES細胞の作製には不妊治療で不要となった受精卵が必要となるなど倫理的な問題がつきまとう。こうした理由もあって、iPS細胞にかかる期待は大きい。

一方、MSCは、iPS細胞やES細胞ほどの多能性はないものの、比較的扱いやすい性質を持つ。日本初の他家細胞再生医療等製品としては、「テムセル(R)HS注」が既に販売されている。移植手術後の重篤な合併症である急性GVHDの治療薬であり、細胞由来ながら従来の医薬品に近い感覚で利用できるという。

緒についたばかりとはいえ、このように医薬品の世界でもゲームチェンジャーが現れ始めている。細胞医薬の今後について、角田氏はこう話す。

「今、まさに時代が変わろうとしている。例えばタンパク質医薬品(バイオ医薬品)が出始めた30~40年ほど前には、『そんなものが普及するわけがない』と製薬企業の人間でさえ否定的だった。それが今では売上高ベスト10の半分を占めるぐらいまでになった。

細胞医薬も必ずそうなる。それが15年後なのか20年後なのか、それはわからない。しかし大きな方向性は間違っていない。何十年も経てば、食中毒を起こしたときに点滴を打つぐらいの感覚で細胞治療を受けられる時代がやってくるはずだ」