2025年までに世界の失明を半分に減らす

――すでに医療機器の認可を受けたのでしょうか。

清水 はい。一般医療機器(クラスI)として、2019年6月にハードウエアの医療機器としての届け出を行いました。ただしそれだけでは利用できません。取得した撮影データをセキュアな環境で保管しなければならないからです。そのためセキュアな保管と撮影機能を補完する専用アプリを開発して、その確認が終わったのが2021年の初めです。そこから販売を開始して、これまでに国内外で50台ほど流通しています。

現段階でアプリは医療機器ではありませんが、今後を見据えて診断補助のAI(人工知能)プログラムを開発中です。それが承認されれば、自動で白内障の診断補助が可能になり、眼科医ではなく内科医でも早期発見ができるようになります。AIプログラムの開発はビジネスサイドのメンバーと一緒に進めています。

スマホに装着した状態のSEC。現在はiPhone 7/8/SE(2代目)に対応だが、Android対応デバイスとアプリも開発中。価格はスマホとアプリがセットで20万〜30万円ほど(写真:小口正貴)
スマホに装着した状態のSEC。現在はiPhone 7/8/SE(2代目)に対応だが、Android対応デバイスとアプリも開発中。価格はスマホとアプリがセットで20万〜30万円ほど(写真:小口正貴)
[画像のクリックで拡大表示]

――ハードウエアだけではなく、診断補助プログラムまで想定しているのは現場の医師ならではです。AIの教師データに関してはどのように収集する予定ですか。

清水 臨床研究でのデータ収集に加え、慶應義塾大学病院にはたくさんの患者が訪れますから、そこからもデータを集めています。慶應義塾大学病院は臨床研究中核病院に指定されているので、その点も我々にとってメリットです。ただし、ここだけではデータ数に限りがあるので、外部の大学や病院、クリニックなどの協力を仰いでいくつもりです。臨床研究法の改正により多施設研究が標準化されたことも追い風です。将来的には、いま以上に円滑に進むようになるのではないかと期待しています。

SECのアプリに保管された眼のデータ(出所:OUI Inc.)
SECのアプリに保管された眼のデータ(出所:OUI Inc.)
[画像のクリックで拡大表示]

――具体的なユースケースを教えてください。

清水 SECは眼科医ならばすぐに使える仕様のため、使い方のサポートが必要ない点が利点です。携帯性を生かし、健康診断などに持ち運んで活用するケースもあります。私も普段の診療で日常的に使用しています。

2021年4月からは、東京都にある11の有人離島のうち9島にSECを導入して、DtoD(Doctor to Doctor)の遠隔診療補助に活用しています。離島に眼科医はいませんが、眼に問題を抱える患者はそれなりにいます。悪化すれば本土の病院まで来るしかありませんが、とても時間とコストがかかり、専門医でないと緊急性の判断がつかない場合もあります。

人口1800人ほどの神津島には2人の医師がいますが、診療所を訪れた患者に対してステロイド点眼薬を処方するかどうかの判断がつきませんでした。そこでSECを使って遠隔で症状を確認し、ステロイドで治ることをアドバイスしました。これまでなら神津島から本土に来ていた症例が、島から移動せずに解決したことになります。公益性が高い取り組みに貢献した事例と言えるでしょう。

――開発のトリガーになったベトナムのように、海外の医療が行き届いていないところでの活用も目標なのでしょうか。

清水 もちろんです。海外はアフリカ、東南アジア、中南米などの開発途上国を想定しています。先に話したように、診断されていない潜在的な患者が多い。我々が2019年12月にテストしたマラウイ共和国は、人口1860万人に対して眼科医はわずか14人しかいません。看護師のような、いわゆるコメディカルの人が診療しているのが現状です。このような厳しい環境で医師以外の医療従事者がSECを使って、問題があれば専門医に引き継ぎ、必要があれば手術するといったフローを実現できるようになります。しかもAIが搭載されれば、その場で一気に診断支援まで可能になる。これは患者にとっても、数少ない現地の医療資源にとっても非常に有益なことです。

マラウイ共和国でSECを活用している様子(出所:OUI Inc.
マラウイ共和国でSECを活用している様子(出所:OUI Inc.
[画像のクリックで拡大表示]

これぞITの武器だと考えています。眼科医にとって失明は、患者が亡くなることと同義です。私は1人でも多くの患者の失明を防ぎたい。だからこそOUIでは「2025年までに世界の失明を半分に減らす」とのビジョンを掲げ、少しでも失明を減らすことを目標としているのです。